「探そう!コミュニティの芽」vol.6~コミュニケーション防災〜
コミュニティづくり2026.03.31
こんにちは。ライフデザインラボの船本由佳です。
このコーナー「探そう!コミュニティの芽」では人と人とのつながりが育まれている現場や 、その仕組み、キーパーソンなどを紹介しています。みなさんの生活や暮らし、コミュニティづくりのヒントになれば嬉しいです。
第6回となる今回は、コミュニケーション防災についてです。
1)コミュニケーション防災とは
防災活動にはさまざまな形がありますが、ライフデザインラボでは「コミュニケーション防災」という考え方を提案しています。
コミュニケーション防災とは、日ごろから顔の見える関係性をつくっておくことで、いざという時に助け合える関係を築いておくという考え方です。
取り組み方は難しいものではありません。普段行っているイベントや地域活動を、「災害時の知り合いを増やす機会」と考えて開催するだけでも、防災につながります。
災害時には、徒歩圏内に住んでいる人たちとの助け合いが何より大切になります。日常のなかで関係性を築いておくことが、いざという時の安心につながります。
2)原点は「子連れ防災」 防災士sumiさん
このコミュニケーション防災の活動に取り組んでいるのが、防災士のsumiさんこと石川澄江さんです。

sumiさん。2024年6月能登町のボランティア拠点の前で撮影
sumiさんのもともとの仕事はソーイング。アパレル企業でパタンナーとして働いていました。2000年の結婚を機に仕事を離れ、パタンナーの経験を活かして、自らも娘と息子を育てながら子育て中の人たちに縫い物を教える活動をしていました。
そして2011年3月11日、神奈川区の子育て支援拠点で2歳の息子と一緒にソーイングの活動中に大きな揺れを感じました。東日本大震災です。6歳の娘は自宅に祖父と一緒にいました。家の外で大きな地震を経験し、親として「今の私は子どもを守れるのだろうか」と強い不安を感じたそうです。
小さな子どもがいると、荷物も多く、すぐに動くことができません。夜泣きや授乳、オムツ替えなど、日常の生活だけでも精一杯の中で災害が起きたとき、どう行動すればよいのか。
この経験が、sumiさんの防災活動の原点になりました。
子育て世代こそ防災意識を高めておくことが大切だと感じ、震災から8年たった2019年に防災士の資格を取得。まずは身近な人に防災の話をするところから活動を始めました。

2023年パシフィコ横浜で開かれた「ベビー&マタニティフェスタ」での神奈川県住宅供給公社の出展「家族を守る防災セミナー」。sumiさんはコミュニケーション防災の講師として登壇。
神奈川県住宅供給公社が無料配布している防災ハンドブック「防災 まもるとつよいぞ BOOK」の監修も務めました。「子育て家庭向け」「在宅避難向け」の2種類があり、家庭でどのような備えをすればよいのか、日常の中でできる防災の工夫が紹介されています。
また、集合住宅や自治会などの求めに応じて東京都が防災学習セミナー講師として派遣する防災士としても活動しています。そうした活動を通じて、住まいや地域に適した防災の実践的な知識を積み重ねてきました。
楽しい活動の中で防災を伝える
単なる座学としての「防災講座」では参加のハードルが高くなるのではないかと考えたsumiさんは、防災を「楽しい活動」と組み合わせて伝える方法を取り入れています。
クイズ形式にしたり、お茶会やクッキングと組み合わせたりと、「防災」をなるべく前面に出さずに、参加しやすい形で防災の知識を共有しています。
防災にソーイングの経験を融合した取り組みも行われています。
例えば風呂敷です。風呂敷は一枚持っているだけで、包む・敷く・かけるなどさまざまな使い方ができる万能アイテムです。使い方によっては水を運ぶことや、赤ちゃんを抱っこする補助としても使うことができます。
sumiさんはすべりやすさ、撥水、洗濯のしやすさ、軽さなどを考えた上で、様々な使い方に対応しやすい生地を選び、自ら縫って制作した風呂敷の活用方法を伝えるワークショップを行っています。日常の知恵として学ぶことが、結果として防災にも役立ちます。
みどり色の風呂敷をつかって抱っこ紐としての使い方を教えているところ。子どもが大きくなり抱っこ紐を常時携帯していなくても、風呂敷があれば抱っこの補助として使うことができる。
また、防災ポーチの提案も行っています。防災ポーチは自宅に備える非常持ち出し袋に対し、外出時に持ち歩く小さな防災セットです。
マスク、携帯トイレ、ホイッスル、絆創膏、常備薬、小さなハサミなど、外出先で地震や豪雨などに遭遇したときに備えて、必要最低限の防災グッズをコンパクトにまとめたもの。自宅に帰るまでの数時間から半日ほどをしのぐためのものです。なるべく軽くして、日常的に携帯することを呼びかけています。
防災ポーチは携帯しやすいようになるべくコンパクトに。それぞれが必要だと思うものを加えてアレンジする。
能登半島地震での支援活動
2024年1月1日に発生した能登半島地震。sumiさんは「災害支援JOCA能登チーム*」に協力し、その年の6月に能登町に滞在し復興支援ボランティアとして活動しました。
*災害支援JOCA能登チーム 避難所や福祉避難所、仮設住宅で被災者見守りや相談支援などを行う地域支え合いセンター事業の一つ。能登町では、JOCA(公益社団法人 青年海外協力協会 JICA青年海外協力隊の経験者による団体)と社会福祉法人佛子園が町や社協、中間支援組織などと連携し運営。

避難所の食材提供コーナー。避難所にいる人だけでなく、在宅避難している人にも渡せるよう避難所のエントランスに設けられている。物資の提供はその時の状況に合わせて、避難所ごとにルールを決めている

この避難所では毎週木曜日にお風呂カーが来て希望者がお風呂に入れた。このお風呂カーはタイからの支援で提供されたもの。車の荷台に設置されたお風呂までの段差が急なため、利用時には支援ボランティアが付き添ってサポートした。

避難所内の共用冷蔵庫。賞味期限があるものを明記してロスが出ないように工夫している。避難所内にはカセットコンロや電子レンジ、電気ポットなどをおく仮設の共用キッチンコーナーを作って、交代でそれぞれが調理や食事ができるようにしていた
震災から半年のこの時期は、避難所から仮設住宅への引っ越しが始まる段階でした。避難所での生活はプライバシーの点では課題がありますが、同じ避難所には近くの地域の人が集まりやすく、互いの体調や様子を気にかけやすい環境があります。しかし仮設住宅では、人数に応じた住宅の広さや、決断の時期などが各家庭でそれぞれ異なり、また住む場所や入居順が抽選で決まることも多く、知らない人同士での生活になる可能性があります。
避難所生活から仮設住宅に移ることができて一安心かというとそうでもなく、仮設住宅では、住宅から出てこない限り、その人の状況が周囲から見えにくくなります。東日本大震災や熊本地震など、これまでの災害では、そのような状況の中で亡くなってしまう「災害関連死」が問題になっていました。
つまり、仮設住宅に移ってからこそコミュニケーションが重要になるのです。
災害関連死は直接の被災ではなく、避難生活や環境の変化、ストレスなどにより亡くなるケースのことです。コミュニティがあることで見守りが自然に機能し、体を動かす機会が増え、情報も手に入り、不安が共有できることでストレスの軽減につながります。
sumiさんは、仮設住宅への引っ越し支援や、仮設住宅の集会所での交流イベントの運営に携わりました。人と人が顔を合わせる機会をつくることが、孤立を防ぐ一歩になります。
私も数日間だけですが一緒に活動しました。「お茶を飲みましょうよ」「体操をしますよ」「レコードをかけますから聴きにきたら」と呼びかけ、反応があるかを確認します。
神奈川県住宅供給公社の団地の集会所などで日常的に行われているサロンや茶話会に参加した経験も役に立ちました。

仮設住宅の側にテントと椅子を設けて仮設住宅への引越しサポートとお茶コーナーを設けた。日中は仕事に出てしまう方も多いので引っ越しのタイミングは住民が顔をあわせる貴重な機会となった

温かいお湯を保温水筒に入れて持ち込み、溶かして飲めるお茶コーナーを設置。

仮設住宅には集会所もセットで建設されるケースが多い。集会所に寄付されたレコードプレーヤーとレコードで「レコードを聞く会」も開催
sumiさんは継続的に能登に関わっていきたいと、現地の商品を購入することで支援する取り組みも行っています。菓子製造で起業したばかりで被災した子育て中の方や福祉作業所の商品を継続的に購入し、首都圏で広め、仕事を支える形での支援に取り組んでいます。
3)団地でのコミュニケーション防災
ライフデザインラボでは、コミュニケーション防災の考え方を各地のコミュニティ活動で活用しています。
例えば相模原市南区の相武台団地の連合自治会が実施する「防災の集い」に参加し、神奈川県住宅供給公社の出展する自治会館のブースで「防災クイズ」を行いました。
クイズは、あらかじめsumiさんが相武台団地でフィールドワークを行い、団地内の防災に関わる場所や設備をテーマに制作。まちを注意深く歩くとクイズのヒントが発見できるという趣向です。
相武台団地中央公園では起震車や煙体験、自治会館では備蓄食の試食や防災用品の展示なども行われました。
公園の看板や自動販売機などがクイズの内容。回答してくださった方には防災ポーチに使えるポーチと防災BOOKを先着50名にプレゼントすることにしたらグングンと回答者が増えた
また、川崎市のある町内会から「防災意識を高めたいが何をすればよいかわからない」という相談を受け、地元の方と相談の上、地域の地図を見ながら防災に関する意見交換を行う交流会を開催しました。
普段顔を合わせている人同士でも、防災について話す機会は多くありません。一度でも話し合う場を持つことで、地域のつながりの大切さを改めて感じる機会になったそうです。
sumiさんが定期的にスタッフを務めている神奈川県住宅供給公社の団地「フロール横浜井土ヶ谷」(横浜市南区)でも、今年から「いざという時のつながりづくり」を意識した防災ミーティングを定期的に開く予定です。


フロール横浜井土ヶ谷で2024年1月に開催した「防災おしるこ会」。備蓄食としても使うことができるお湯でつくるおしるこで、団地内の共用スペース、シェアラウンジでの新年会イベントを行った。災害時を想定し、容器をビニール袋に覆っておしるこを作り、容器を洗わずに済む方法を紹介。

フロール横濱関内(横浜市中区)1階のコミュニティラウンジbenten103で開いた「能登半島応援イベント」の一コマ。能登で購入したお酒や食品を提供し、能登について語り、来場者には能登の産品を購入してもらった
顔を合わせることが防災になる
コミュニケーション防災は、特別な訓練だけを指すものではありません。
日常の中で顔を合わせること。名前を知ること。少し言葉を交わすこと。
そうした関係性の積み重ねが、災害時のちょっとした安心につながります。
地域で顔の見える関係をつくることが、防災の第一歩と考えれば、地域の活動はどんな小さなものでも地域の防災力につながるきっかけになるのです。
能登半島での震災から2年。先日、sumiさんと能登半島に行き、日常の活動を災害時にも活かす「フェースフリー」の活動についてお話を伺ってきました。このコーナーでも能登のいまとコミュニティ形成の学びについてお伝えしていきたいと思います。
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これまでの「探そう!コミュニティの芽」は下記リンクへ
●関連サイト
「フロール元住吉 × フロール横浜井土ヶ谷」スタッフ意見交換会&見学レポート~現場で生まれる「気づき」を共有し、よりよい住まいづくりへ(2025.12.18)
【赤ちゃんと一緒に防災を学ぼう】手形足形アート×防災トーク!9月の「はじめてばこ」公社2団地出張イベントレポート(2025.11.17)
県公社のたよりー日常を守るためにできるコトー「防災について考えよう!」(2025.11.28) (公社賃貸住宅がある自治体の防災情報)



