【「with Public」企画インタビュー】団地の課題が、学生の学びに──サッカー部と地域が育ち合う場所

コミュニティづくり2026.02.27広報担当

oomori_main.jpg

神奈川大学 サッカー部 監督 大森酉三郎さん

サッカーの技術や勝敗だけでなく、人としてどう成長するか――。
大森監督は、学生アスリートの育成において、その視点を何よりも大切にしています。その実践の場として選ばれたのが、神奈川県住宅供給公社の竹山団地。
高齢化などの課題を抱える団地を、学生アスリートの「学びのフィールド」と捉え、神奈川大学のサッカー部員たちは地域の中で暮らし、世代を超えた関わりを重ねています。
今回は、大森監督に、団地で活動することになった背景や、地域との関わりの中で生まれた学び、そして今後の展望について話を聞きました。

サッカー部員が団地で暮らすことになった経緯を教えてください。

大森監督:この取り組みのきっかけには、大磯町で活動されている、神奈川県住宅供給公社(以下、公社)の「団地共生プロデューサー(公社業務では持ちえない特定の知識・経験・ノウハウを持つ社外専門家。公社から委嘱を受け、公社が行う団地と地域の共生の取り組みにおいて、指導や助言、援助を行う。公社の使命である団地居住者等が安心感と生きがいをもって共に生活し、地域の社会・経済・環境と共生できる団地づくりに取り組み、これを広く社会へ発信していくために協力する。)」を務める原大佑さんの存在がありました。
原さんとは、茅ヶ崎のコミュニティ農園のオーナーである熊澤さんの紹介で出会ったのですが、公社の二宮団地(中郡二宮町)とその周辺地域で農や食、里山や遊びをテーマにした暮らしを提案するさまざまな活動を展開されていることに驚きました。私自身も以前からその取り組みに興味を持ち、話を聞く中で、原さんの「団地は未来社会の縮図だ」という言葉が強く印象に残りました。これから高齢化社会が進む中で、団地は学生の学びの場になるのではないか。そんなイメージが湧いたんです。
その後、原さんから公社職員の方を紹介してもらい、立地や環境の面から竹山団地(横浜市緑区)を提案していただきました。実際に初めて訪れた際、1970年代に開発した古い団地ではありますが、ゴミや落書きもなく、きちんと手入れされていることに驚きました。何より、自治会の方が何度も私の話を聞いてくれて、理解しようとしてくださった。その後、自治会や公社の方々と協議を重ね、2020年3月に公社と大学とで連携協定を締結し、サッカー部員が団地に住まいながら、サッカーと地域活動の両立に取り組む体制がスタートしました。

oomori_2.JPG
2025年4月から本格稼働した竹山セントラルでお話をお聞きしました。

サッカー部員を集団で住まわせる発想や構想は以前からあったのですか。

大森監督:私は大学院で、アスリートのライフスキル、メンタルや心理的スキルを研究していました。内面の成長がアスリートとしての成長につながることは、自身の研究からも強く実感しています。練習や試合などだけでなく、人生経験そのものが重要です。自立した生活や他者との共同生活の中で、人は大きく鍛えられます。湘南ベルマーレや地域スポーツの現場での経験も踏まえ、「集団生活の中で、いろいろな経験を積ませたい」という思いは以前からありました。
団地は社会課題を抱える場所でもありますが、その課題こそが若者にとっては"価値"になる。人間力を育てるフィールドとして、最適なのではないかと考えました。

oomori_3.JPG
「実家や管理された寮で完結する生活ではなく、地域の中で暮らし、さまざまな世代や価値観の人と関わる経験が選手として、人としての成長の糧になると考えています」

団地での暮らしは、学生たちにどのような影響を与えていますか。

大森監督:正直に言うと、最初は戸惑いもありました。「サッカーの練習ではなく、なぜ地域活動をやらなければならないのか?」という声もありました。
2020年4月の公社との連携開始時は、その年に入部した1年生だけが竹山団地での暮らしをスタートしました。ただ、この年はコロナ禍。何もない、何もできないところから、自分たちで形をつくっていく経験は、後から振り返ると大きな力になっていると感じます。その後、2023年には1年生から4年生まで全学年約60名が入居する形になりました。団地の一部屋に2、3名が共同生活をするスタイルで、学年やサッカーのポジションもバラバラです。
こういった共同生活や地域との関わりを通じて、学生たちは「人と関わる力」を自然と身につけていきました。年齢や価値観も異なる住民の方々と接する中で、挨拶や会話の重み、人との距離感を学んでいきます。次第に地域の一員として受け入れられ、自分たちの居場所を見つけていく。その過程そのものが、競技力とは別の、人間的な成長につながっていると感じました。

ku_2.JPG
横浜市緑区中山にある神奈川大学のグラウンド。朝練を終え、授業や竹山での活動など、1日が始まります

竹山団地の地域の方との関係づくりは、最初からスムーズでしたか。

大森監督:最初は不安もありました。サッカー部の男子大学生がまとまって住むわけですから。私の不安以上に地域の方も不安だったんだと思います。
最初は団地や地域の清掃活動など、地道な関わりから始めました。その後、スマホ教室の先生役を皮切りに、団地の商店街の空き店舗をお借りしてサッカー部の食堂として活用していた場所を、カフェや健康体操の場として地域に開放し、学生たちはカフェの店員や体操のサポートをアルバイトとして活動することになりました。
ある日、学生たちがカフェの常連さんの誕生日に、サプライズでケーキを用意し、「ハッピーバースデー」を歌ったことがありました。自分たちのお金とアイデアでやったと聞いて、正直驚きましたね(笑)。
こうした交流を通じて、住民の方がサッカー部の活動を認めてくれ、試合に応援に来てくれるようにもなりました。シュートを決めた後、ベンチではなく、応援に来てくれた住民の方のもとへ一緒に喜びに行く学生の姿を見て、ここまでの関係になるとは想像していなかったです。

ku_1.JPG
卒業する4年生へのメッセージボックス。どんなメッセージが送られるか楽しみです!

団地での生活を「学びのフィールド」と捉えている理由を教えてください。

大森監督:高齢化や担い手不足といった課題を抱える団地と、一方で、人として成長するための実践的な学びの場を求めているサッカー部の学生たち。この二つが重なり合ったことで、団地は学生にとっての「学びのフィールド」になっていると感じます。
団地で暮らし、地域の一員として関わることで、教室やグラウンドでは得られない力が自然と育まれていきます。
カフェや体操のサポートなど、それぞれが役割を持ち、責任を果たす中で、調整力や全体を見る力といったリーダーシップやマネジメント力も身についています。それはチーム運営にも影響して、確実にプレーにも生きています。
また、「団地で生活し、地域で活動していました」と語れる経験は、就職活動でも大きな強みになっているようです。
団地は、学生として、競技者として、住人として、労働者としてなど、さまざまな立場を同時に学べる場所です。団地が抱える社会課題そのものが学生の学びとなり、学生の元気やチームワークが団地の力になる。その相互作用こそが、団地を「学びのフィールド」と捉えている理由です。

ku_3.JPG
横浜市神奈川区にある休耕地の畑を借り受け、野菜づくりを行っている。出来た野菜は学生の食事や竹山キッチンのメニューに使われています

ku_4.JPG
竹山キッチンでは学生やコーチが調理担当やホール担当など役割分担し、運営しています

ku_5.JPG
夕方には学校から帰ってきた小学生の宿題をみる場面も。今では日常の光景となっています

今後、この取り組みをどのように発展させていきたいですか。

大森監督:こうした学びの場として取り組めているのは、自治会の皆さんをはじめとする団地の方や公社の方々が、学生たちを温かく受け入れ、日常の中で関わってくださっているおかげだと感じています。この活動は、一時的なものではなく、継続していくことが何より重要です。今後は、これまでの活動に加えて、未来を担う子どもたちを支援する取り組みにも力を入れていきたいと考えています。
子どもたちの遊びや居場所づくりなど、子どもたちが学生と日常的に関われる機会をつくることで、団地が「安心して過ごせる場所」になっていくのではないでしょうか。こうした活動も、学生にとっても大きな学びになります。学生たちも今後、社会に出て結婚して、子育て、介護など、初めての場面に出くわすこともあるでしょう。若いときにさまざまな人と関り、さまざまな役割を担うことは、相手の立場を理解しながら責任をもって物事を推進するという今後の人生に通じる力になると信じています。
学生や子どもたち、高齢者が交わる日常の風景が積み重なって、「ここで暮らしてみたい」「関わってみたい」と感じる人が増えていく。そうした人の流れや新しい関係性が自然に生まれる団地づくりを、地域とともに進めていきたいと考えています。

oomori_4.jpg
取材の日はセントラルでサッカー部2年生(弱冠20歳!)が指導者となって「レッドコード」(天井から吊るされた赤いロープを使って身体の一部を支えながら行うトレーニング)のプログラムを行っていました。参加者も熱心に話を聞きながらトレーニングしていました

大森酉三郎(おおもり ゆうざぶろう)

1969年神奈川県生まれ。中央大学を経て海上自衛隊に入隊後、厚木基地などでプレー。全国自衛隊サッカー大会や国体で全国優勝。引退後、2004年神奈川大学サッカー部監督。その後、2008年神大を関東1部昇格に導く。神奈川大学大学院を経て湘南ベルマーレ、星槎グループで地域スポーツ振興に携わり、2019年4月から神大監督に復帰。
現在は神奈川大学スポーツセンタースポーツ戦略室専任職員としてサッカー部監督を務める。

大森監督が登壇するトークイベント

関連サイト

竹山団地プロジェクト
https://www.kanagawa-jk.or.jp/action/takeyama-project.html
竹山団地(横浜市緑区)×神奈川大学
「団地と大学、地域をつなぐプロジェクト」〜学生の地域活動による団地住民とのつながり〜
https://www.kosha33.com/life/community/takeyama-ku.php

竹山団地プロジェクト(神奈川大学WEBサイト)
https://www.kanagawa-u.ac.jp/cooperation/project/takeyama/

ブログ一覧に戻る