【「with Public」企画インタビュー】団地を学びのフィールドに──大学と地域が育てる"続く関係"

コミュニティづくり2026.02.27広報担当

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東京工芸大学 工学部 教授 森田 芳朗さん

2018年から東京工芸大学と神奈川県住宅供給公社が連携し、厚木市の緑ヶ丘団地を舞台に続けてきた実践型プロジェクト「ミドラボ」。 建築やデザインを学ぶ学生たちは、大学の教室だけではなく団地をフィールドに、住民や地域と関わりながら挑戦を積み重ねてきました。
「ミドラボ」の東京工芸大学側の仕掛け人である、森田教授に、大学生が団地をフィールドに活動する「ミドラボ」プロジェクトの立ち上げの背景から、教育・研究、これからの展望について話を聞きました。

神奈川県住宅供給公社との連携は、どのように始まったのでしょうか。

森田教授:2017年に神奈川県住宅供給公社から声をかけていただいたことから始まりました。
大学生の頃から、集合住宅や団地は研究テーマのひとつでした。私自身、福岡の公団住宅で育った"団地育ち"でもあります。子どもの頃に経験した、にぎやかで楽しかった団地の記憶が今も心に残っていて、そうした場所と自然な形で関わりながら活動したいという思いがあったので連携には興味を持ちました。
大学内で関心のある教員を募り、建築系を中心に5〜6人が集まりましたが、当初は「何をやるか」も決まっていない、まさにゼロからのスタートでした。
2018年に連携協定を締結。緑ヶ丘団地を舞台にした教育・研究プロジェクト「ミドラボ」がスタートしました。まずは団地を知ることから始めようと、設計製図の授業課題として、団地のリノベーション提案に取り組みました。学生の提案パネルや模型を空き住戸や集会所で展示するなど、団地をフィールドにした最初の実践でした。

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2025年2月に改修を終えた緑ヶ丘団地の集会所でお話をお聞きしました。

「ミドラボ」
学生による設計・提案: 建築や都市デザインを学ぶ学生が、団地の空き家や集会所のリノベーションプランを具体的に設計・提案。
「団地活性サポーター制度」では、学生が団地に居住し、活動に参加。団地集会所を「ミドリバ」(集会所を「みんなの居場所」としてオープンする取り組み。緑ヶ丘団地の『緑』と、居場所の『場』を組み合わせた言葉)として開放し、学生が地域住民と交流する場を提供したり、イベントを開催したり地域コミュニティの活性化を目指していますまた、マンガや映像などのアートの力を活用し、団地や地域の魅力を発信する広報活動も行っている。
国土交通省のモデル事業に選定されるなど、具体的な成果を上げている。

これまでの取り組み・活動は「ミドラボイヤーブック<電子ブック>」で紹介しています。

活動のフィールドである「団地」の特色を教えてください。

森田教授:緑ヶ丘団地の前にも、2015年から3年間、厚木市内のURの団地で学生と活動した経験があります。その経験から、団地では、高齢化や空き家、コミュニティの変化など、今の日本社会の課題が先行して現れていると感じました。
ただ、一方で、団地は長く住み続けてきた人の知恵や関係性も残っていて、教育や研究のフィールドとして、とても多くのことを学べる場所ではないかと思っています。
また、東京工芸大学としては、建築だけでなく、写真学科やデザイン学科、メディア系の先生・学生とも協働できる可能性があり「いろいろとコラボレーションできるのでは?」という感覚が、自然に広がっていきました。
今では、授業、研究室活動、団地活性サポーターとしての居住、自主活動など、本学と緑ヶ丘団地の関わり方は本当にさまざまとなっています。

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「実験的な取り組みを"暮らしの中"でチャレンジできる貴重なフィールドだと思っています」

団地を舞台にすることを学生はどのようにとらえているのでしょう。

森田教授:学生たちは、団地は「古い」「設備が昔のまま」「よく分からない場所」という印象のようです。
団地を理解し、団地で活動するには、住民の方と話さないと何も進まない。まずは話をしてみる。最初のハードルですね。
ただ、活動を重ねる中で、住民の方と話し、場づくりに関わるうちに、学生たちの団地に対する意識が変わっていったように感じます。
大学生は普段、大学と家族以外の世界と接する機会はアルバイト先くらいしかありません。団地での活動は、年齢も立場も違う人と関わる経験そのものが学びになります。「最初は緊張していたけれど、慣れてくると楽しくなった」という学生の声も聞きました。団地という"暮らしの現場"に出ることで、学生自身が成長しているのを感じます。
失敗できない時代だと言われますが、ここでは失敗も経験してほしいと思っています。うまくいかないことを体験することで、課題の本質が見えてくる。そのプロセス自体が、学生にとって大きな学びです。

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東京工芸大学4年生の渡邊さん「ミドラボの活動は知ってても、なかなか集会所まで来ていただけてない方もいます。多くの方に来てほしいので、色々企画を考えています。」と集会所を案内してくれました



「ミドラボ」の活動で大切にしている考え方はありますか。

森田教授:立ち上げ当初に大事だと思っていたことが、いまも活動の軸になっています。
一つ目は「楽しむ」こと。自分たちが楽しまないと続きません。 二つ目は「開く」。団地単体で考えるのではなく、周辺のまちや人とどう関係をつくるか。 三つ目は「つなげる」。地域や団体、企業とつながることで何が生まれるかを一緒に楽しむ。 そして四つ目が「続ける」。短期的な成果だけを求めるのではなく、根を張って関わることです。
こうした姿勢の中で、「学ぶ」「つくる」「暮らす」「つながる」が一体となった団地は、もうひとつのキャンパスのような場だと思っています。
自分たちが楽しんでいない場所には、周りの人も近づいてきませんよね。
ただ、活動を続けていると手応えを感じるときもありますが、多くはみんなで悩んでいる時間が多いです。ただ、そこが面白いんです。

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「"楽しむ"ことが重要と思っています。みんなが楽しめる環境をどうつくるかが大切です」



具体的な取り組みで、印象に残っているものを教えてください。

森田教授:どれも思い入れがありますが、フェンスで囲まれた敷地をつないでいく「オープンストリート構想」や、工学部と芸術学部が本格的に連携してプロモーションビデオも制作しました。その後も、マンガや手ぬぐい、似顔絵など、学生の表現が活動に広がりました。
「オープンストリート構想」のように、少しずつ風景を変えていくことで、その場所にストーリーが生まれます。フェンスを外して、空間を「開いた」場所にするだけでも印象は大きく変わりました。

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2022年11月に行ったオープンストリートの実験。地域の方にも協力いただき、様々な声をいただきました。構想が徐々に現実になってきています

「オープンストリート構想」
フェンスなどで分断された団地や住宅地の屋外空間を「開いてつなげる」ことで、新たな道空間や交流の場を創出し、住民のつながりや地域活性化を目指す取り組み

森田教授:また、2025年の集会所の改修後、緑ヶ丘団地の賃貸、分譲、戸建ての方80名ほどの方にアンケートに協力していただきました。
「何をしている場所なのか知りたい」
「集会所の周りが明るくなった気がします」
「学生が元気に活動しているのを見るのが嬉しい」
という声が多く、
「活動のアピールが足りない」
「活動のスケジュールがわかりづらい」
など改善ポイントもいただきましたが、否定的な意見はほとんどありませんでした。活動を続けて良いんだ、と背中を押してもらえた気がしましたね。
集会所に訪れる人の数だけではなく、団地の風景や空気が変わることも、ひとつの成果だと思っています。子どもたちが自然と集まり、学生と一緒に遊ぶ姿が見られるようになったのも大きな変化です。以前はなかった光景が生まれていることに、手応えを感じています。

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改修前の集会所(2022年)

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改修後の集会所(2025年)集会所周辺の歩道が整備され、外からの視認性も上がり、出入りしやすい場所になった

森田教授:芸術学部の学生や教員が「ミドラボ」のロゴやのれん、集会所で流すオリジナルのBGM制作などで関わっています。いろいろな分野の人が、いろいろな密度で関わり、住民の方も少しずつ輪に入ってきている。その感覚が、「ミドラボ」らしさかもしれません。
あまり難しく考えすぎず、まずはやってみる。その中で、活動の本当の目的が見えてくるのだと思います。

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「この、のれんがかかっている時は人が居る、そんな目印になればいいなと思って作ってもらいました」

大学が地域での取り組みを行う際に、大切だと思うポイントは何ですか

森田教授:かつては憧れだった団地が、近年では、高齢化や空き家の象徴のように語られることもあります。でも、豊かな共用スペースや、時間をかけて育まれてきた歴史は、今では簡単につくれないものばかりです。
団地は地域の資産です。その価値を、どう地域と共有していくか。そこに大学が関わる意味があると思っています。
ただ、大学だけで続けるのは難しいですね。一緒に一喜一憂しながら動いてくれる核となるパートナーが必要です。ミドラボにとっては、公社の存在がまさにそれでした。
「楽しむ」・「開く」・「つなげる」・「続ける」
この姿勢を大切にしながら、様々な方とのコラボレーションをこれからも広げていきたいと思っています。

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井戸端会議や交流ができる場所として、集会所の近くのプレイロットにリングベンチを設置(設計:建築コース田村裕希研究室)

今後、どのような展開を考えていますか。

森田教授:「集会所」のキッチンを使った活動や、屋台、ベンチなど、小さな仕掛けを少しずつ増やしていきたいですね。
これまでどおり、デザイン、建築、環境など、大学のさまざまな分野が重なり合っていくのも面白いと思います。
2025年に「集会所」をリニューアルしましたが、「集会所」という名前は、 "用事がある人だけが使う場所"という印象があるのではないでしょうか。団地の外に住む方からすると、入りづらいと感じることもあると思います。名前や看板のデザインを変えるだけでも、心理的なハードルは下がると考え「町のお茶の間が、たまたまここにある」そんな場所になればいいなと思っています。
団地の課題に正解やゴールはないと考えています。だからこそ、続けることで見えてくるものがある。ミドラボは、これからも団地とともに変わり続けていくプロジェクトでありたいと思っています。

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やりたいことはまだまだ!プロジェクトは続きます。

森田 芳朗(もりた・よしろう)

1973年福岡県生まれ。1998年九州大学大学院工学研究科修士課程修了。2004年東京大学大学院工学系研究科博士課程修了。博士(工学)。現在、東京工芸大学工学部教授。
専門は建築社会システム、集合住宅、団地再生、空き家活用など。
現在、東京工芸大学工学部教授として、建築・都市分野の教育・研究に携わる。
主な著書に『図表でわかる建築生産レファレンス』『箱の産業:プレハブ住宅技術者たちの証言』『世界のSSD100:都市持続再生のツボ』(いずれも共編著、彰国社)など。
共編著書『建築・まちづくりのための空き家大全』は、公益社団法人日本不動産学会の2024年度著作賞(実務部門)を受賞。

森田教授が登壇するトークイベント

関連サイト

ミドラボ
https://www.kanagawa-jk.or.jp/action/midolab.html
緑ヶ丘団地(厚木市)×東京工芸大学
「団地と大学、地域をつなぐプロジェクト」〜専門分野を活かした住環境づくり〜
https://www.kosha33.com/life/community/midorigaoka-tku.php

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