「探そう!コミュニティの芽」vol.5~ゆるやかにつながり安心が得られる「いどばたコミュニティ」〜
コミュニティづくり2026.01.30
こんにちは。ライフデザインラボの船本由佳です。
このコーナー「探そう!コミュニティの芽」では人と人とのつながりが育まれている現場や 、その仕組み、キーパーソンなどを紹介しています。みなさんの生活や暮らし、コミュニティづくりのヒントになれば嬉しいです。
第5回となる今回は、神奈川県住宅供給公社が運営するマンション型団地「フロール横浜井土ヶ谷」(横浜市南区)で活動する「いどばたスタッフ」と、その取り組みをご紹介します。
2024年に竣工した大岡川沿いに立つフロール横浜井土ヶ谷
1)フロール横浜井土ヶ谷と「いどばたスタッフ」
フロール横浜井土ヶ谷は、1971年築の「横浜井土ヶ谷共同ビル」を建て替え、2024年1月に竣工した賃貸住宅です。神奈川県住宅供給公社が管理・運営し、以前から住んでいた方と新たに入居した方が共に暮らしています。
エントランスを入ってすぐのところに入居者が自由に利用できるシェアラウンジがあります。
カウンターとテーブルと椅子、大きなテレビとソファ、子どもが靴を脱いで遊べるマットなどがあり、入居者はいつでも使うことができます。
可動式の壁を使用すると2部屋に分けることができます。
広々とした明るいシェアラウンジ。仕事をする人、本を読む人、くつろぐ人など、様々な人が多様な用途で利用している。窓からは川沿いの桜並木が見える。
このシェアラウンジで活動するのが「いどばたスタッフ」です。いどばたスタッフは、神奈川県住宅供給公社がフロール横浜井土ヶ谷の入居者にゆるやかなコミュニティがある豊かな暮らしを提供したいと、建て替えのタイミングにスタートした役割です。週に2〜3回半日程度ラウンジに滞在し、入居者と顔を合わせる機会をつくりながら、シェアラウンジをきっかけとした、ゆるやかなつながりづくりを担っています。
メインスタッフは4名。いずれもライフデザインラボのメンバーで、それぞれの専門分野や経験を活かし、コミュニティづくりに関わっています。

いどばたスタッフ勢揃い。真ん中が筆者です
2)いどばたスタッフの得意分野
情報発信でつながりをつくる
団地内向けの通信や掲示物を制作しているのが、本田真弓さんです。本業は市民ライターで、情報発信を通して人と人をつなぐことを得意としています。フロール横浜井土ヶ谷には入居者のみが参加できるLINEオープンチャットもあり、シェアラウンジの予定や日々の小さな出来事を丁寧に発信しています。こうした情報共有が、入居者同士の関係づくりのきっかけになっています。

毎月発行している「いどばた通信」。これは2025年12月号の表面で、裏面には2ヶ月分の活動カレンダーを。毎月の予定やお知らせ、地域の行事などを綴り、郵便受けに投函する形で全戸配布している
シェアラウンジ前の張り紙や掲示ボードも大切な情報共有の場となっている
ソーイングを通じた交流
月に1回、ミシンを使ったソーイングの時間を担当しているのが石川澄江さん(通称sumiさん)です。sumiさんは防災士の資格も持ち、フロール横浜井土ヶ谷で進めている防災プロジェクトの呼びかけ人でもあります。
かつては家庭にミシンがあることは珍しくありませんでしたが、現在は持っていない家庭も多くなっています。シェアラウンジにはミシンが設置されており、sumiさんの滞在時間にはミシンの相談ができるためリピーターも多く訪れます。裾上げや洋服のリメイクをきっかけに、手を動かしながら自然と会話が生まれる時間になっています。
シェアラウンジにはみんなで使い合える共有ミシンがあり、ソーイング講師のsumiさんが使い方を教えてくれる。12月にはシェアラウンジの飾りを作るワークショップも行った
本を介した静かなコミュニケーション
シェアラウンジには「いどばた文庫」と名付けられたシェア本棚があります。入居者から寄贈された本を、ブックコミュニケーターの石井裕子さんが丁寧に管理しています。月に一回、いどばた文庫の前でお茶やコーヒーをふるまう時間を設けています。(「探そう!コミュニティの芽」vol.3 ~本を介したコミュニティ〜|ブログ|Kosha33ジャーナル)
本を手に取るためにラウンジを訪れること自体が、場に関わるきっかけになります。会話を交わさなくても、互いの存在を感じられる関係性が、静かに育まれています。
年齢を問わず体を動かす機会
月に1回、椅子に座って行う健康体操を担当しているのが小田さやかさんです。さやかさんは介護福祉士で介護施設での現場経験があり、ベビーマッサージ講師、ヨガインストラクターとしての顔も持っています。子どもから高齢者まで、幅広い世代が無理なく体を動かせる時間をつくっています。体操のあとの雑談タイムも楽しみの一つです。

2025年の住民交流会での一コマ。みなっち体操という横浜市南区のオリジナル体操を曲に合わせて体験している様子
「いる」ことを大切にするスタッフの役割
いどばたスタッフは、プログラムを実施するだけでなく、ラウンジに「いる」こと自体を大切にしています。定期的に出入りし入居者と顔を合わせることで、日常の小さな変化に気づくことができます。
例えば、落とし物、吸い殻のマナー、風の強い日に開いてしまう扉、羽虫の発生、雑草の状態、ゴミ出しルールへの疑問などです。そうした気づきを入居者や関係者と共有し、課題として受け止めていきます。
入居者のちょっとした様子の変化に気づけるのも、顔の見える関係性があるからこそです。
いどばたスタッフが日常的にシェアラウンジに「いる」ことで、入居者との自然な会話や小さな気づきが生まれています。
3)いどばたプロジェクトの目指すもの
公社の団地には広場・プレイロットなどの共有部が多く、集会所が設けられていることも少なくありません。
共有の場所がうまく活用されていると、自然と住民同士のつながりは自然と生まれていきます。
フロール横浜井土ヶ谷の前身である「横浜井土ヶ谷共同ビル」にあった集会所は共同ビルの人だけでなく、地域の方にも活用されていました。フロール横浜井土ヶ谷に新しくできた集会所(シェアラウンジ)もサイズはほぼそのままに、多様な使い方ができる入居者の共用スペース「シェアラウンジ」として生まれ変わりました。
また、生活に欠かせない井戸のそばに自然と集まり会話が生まれる「井戸端会議」と井土ヶ谷の語感から、このシェアラウンジで育まれるコミュニティを「いどばた」と名付け、そこで活動するスタッフを「いどばたスタッフ」と呼ぶことにしました。
いどばたスタッフによる有人管理を始めるにあたり、滞在が週2〜3回では行き届かない部分もあるだろうと、入居が始まる前に「居場所のルール」づくりについても検討を重ねました。禁止事項を並べるのではなく、使用者と管理者が共に目指す姿を共有することを大切にし、コミュニティの目標を言葉にすることにしました。
共同ビル時代をよく知る現場管理者やリニューアルを担当した公社職員、いどばたスタッフが集まり目標を作成するワークショップを行いました。
なんのために(目的)誰のために(対象)どうなりたいのか(どんな価値を生み出すのか)
を書き出し、分析し、コミュニティの目標につながるキーワードを紡ぐことにしました。
そしてワークショップを通じて導き出したキャッチフレーズが、
「ゆるやかにつながり安心が得られる」という言葉です。
コミュニティの目指す3つの目標
ほどよい人付き合い
皆、様々な事情や価値観を持っています。それぞれができる範囲で穏やかに心地よく暮らしていけるよう、みんなの協力で。
コミュニティ防災
ゆるやかで、かつ、いざという時に助け合える顔の見えるコミュニティをつくっていきましょう。
地域とのつながり
情報発信や場の活用を通して、居住者のみなさんや地域の方々がゆるやかにつながることで安全安心のまちづくりへ。
このキャッチフレーズと3つの目標が、シェアラウンジを核としたフロール横浜井土ヶ谷でのコミュニティ活動を考える基準となっています。

キャッチフレーズと3つの目標は、シェアラウンジ内に掲示されている。図書館に「図書館の自由に関する宣言」が貼り出されていることを参考にした
4)コミュニティの深まりと、住民主体の動き
ライフデザインラボでは、コミュニティの深まりを「興味→関心→主体→主体市民」という4つのステップで捉えています。最終的な目標は、いざという時に助け合える、顔の見える関係性をつくることです。(「探そう!コミュニティの芽」vol.2~居場所から始まる実験「ライフデザインラボ」)
コミュニティへの一歩はまず「興味」から始まり、何かのきっかけやイベントで、ある場所に足を運ぶ。
次に「関心」として、顔見知りができ、また会いたくなる、参加したくなる関係性が生まれる。
そして「主体」となり、参加者が自分から何かを始めるようになり、最終的には「主体市民」として、他者とともに地域に貢献する存在になります。
2025年夏に初開催した「ボッチャ大会」は入居者にボッチャの審判ができる方がいらっしゃったため、その方と一緒に実施した。好評だったため、2026年2月にも体験会を予定している
フロール横浜井土ヶ谷で行われているソーイングやいどばた文庫、健康体操は、入居者の方がシェアラウンジの活動にまず興味を持ち、足を運び、「出会う」ためのきっかけです。こうした定期的なプログラムを重ねることでリピーターが生まれ、顔見知りの関係が育ってきています。
2025年、シェアラウンジを主体的に活用する居住者の活動を支援しようと「シェアラウンジ活性化プロジェクト」として居住者を対象に提案を募集する取り組みをはじめました。
その結果、居住者の声から新たに生まれた定期プログラムが2つあります。世代を超えて交流できる駄菓子屋さんプロジェクトと、童謡や歌謡曲を一緒に歌う歌声サロンです。いずれも、居住者のアイデアをいどばたスタッフがサポートしながら、自主的に開催されています。

元保育士の入居者が高齢者にも子供にも集ってもらいたいと始めた駄菓子屋サロン、題して「しまちゃんの駄菓子や開花堂」。同じく元保育士の入居者が呼びかけ人の「童謡と心に響く歌をうたう会」と一緒に月に一回シェアラウンジを活用し住民交流のきっかけを作っている
今後はこうした住民同士の活動を紹介し合う交流会も計画しています。
昨年実施した交流会では、体操プログラムの体験、野菜販売をはじめ、ギター演奏、ハンドマッサージなど、居住者それぞれの「得意」を生かした企画が並びました。
2026年は、ボッチャ大会、ソーイングプログラムで制作したリメイク作品の展示、駄菓子屋さん、歌の会やいどばた文庫の紹介などを予定しています。

2年に一回開かれる地域の秋祭りでは、フロール横浜井土ヶ谷の前に地域のお神輿が大集合
2024年にいどばたスタッフをスタートして丸2年。短期間のうちに住民自らの発案があり、場の担い手が生まれるスピード感には驚いています。
日々の対話や小さな取り組みの積み重ねが、いどばたスタッフと住民の信頼や住民自らの「やってみよう!」という気持ちが芽生え、自分たちの住む場所を自分たちでより良くしたいという思いが、少しずつかたちになり、温かなつながりの輪が生まれ始めています。
2026年のいどばた活動は防災と地域連携に力を入れていく予定です。
団地に限らず、地域の自治会に加入しないという人も増える中、どのように地域のつながりを維持し、住民の主体的なまちづくりに取り組んでいけば良いのか。防災を切り口にした「コミュニティ防災」の取り組みについては、次回以降のこのコーナーで紹介していきたいと思っています。
桜のお花見スポットでもある大岡川沿いのフロール横浜井土ヶ谷。桜の時期が楽しみです
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ライフデザインラボの活動はライフデザインラボWEBサイトへ
これまでの「探そう!コミュニティの芽」は下記リンクへ
新企画!「探そう!コミュニティの芽」vol.1(2025.05.27)
「探そう!コミュニティの芽」vol.2~居場所から始まる実験「ライフデザインラボ」~(2025.07.31)
「探そう!コミュニティの芽」vol.3 ~本を介したコミュニティ〜(2025.09.30)
「探そう!コミュニティの芽」vol.4~欲しい未来に寄付を贈ろう 寄付月間2025〜(2025.11.28)
●関連サイト
「フロール元住吉 × フロール横浜井土ヶ谷」スタッフ意見交換会&見学レポート~現場で生まれる「気づき」を共有し、よりよい住まいづくりへ(2025.12.18)
【赤ちゃんと一緒に防災を学ぼう】手形足形アート×防災トーク!9月の「はじめてばこ」公社2団地出張イベントレポート(2025.11.17)
