「探そう!コミュニティの芽」vol.7~平時のつながりが、非常時を支える 輪島で続く「ごちゃまぜ」の地域づくり〜
コミュニティづくり2026.05.29
こんにちは。ライフデザインラボの船本由佳です。
このコーナー「探そう!コミュニティの芽」では、人と人とのつながりが育まれている現場や、その仕組み、キーパーソンなどを紹介しています。みなさんの生活や暮らし、コミュニティづくりのヒントになれば嬉しいです。
前回(「探そう!コミュニティの芽」vol.6~コミュニケーション防災〜)では、防災士のsumiさんとともに「コミュニケーション防災」の考え方をお伝えし、sumiさんと一緒に能登半島を訪れたことにも触れました。今回はその続きです。
石川県輪島市で10年間「ごちゃまぜ」の地域づくりをしてきた「輪島KABULET(わじま・かぶーれ)」を訪ねました。平時から人が集まり、支え合う関係を育てることが、非常時にも役立った事例についてお伝えします。
1)温泉、食堂、福祉、交流が1か所に キーワードは「ごちゃまぜ」
「輪島KABULET(以下カブーレ)」は、石川県輪島市の中心市街地の空き家と空き地を活用してつくられた複合交流施設です。
温泉、食堂、健康増進施設、ママカフェ、高齢者デイサービス、配食サービス、就労支援、交流スペースなど、さまざまな機能が、輪島の中心市街地に集結しています。
今回、施設長の寺田誠さんに案内していただきながら、お話を伺いました。
5軒の空き家をリノベーション、隣接する空地2区画も活用してできた「輪島KABULET」。左側が蕎麦屋、正面奥が温泉、中庭を挟んで右側が高齢者デイサービス。2階には放課後等デイサービスや生活介護の部屋など。道路を挟んで、トレーニングができる健康増進施設、キッチンのある親子の居場所ママカフェがある
この場を貫くキーワードが「ごちゃまぜ」です。
カブーレの中核は「福祉」。高齢者デイサービス、生活介護、放課後等デイサービスなどの機能があり、近隣施設を含めた全体が障がい者や高齢者の就労支援の場所となっています。
単一の福祉施設ではなく、蕎麦屋や温泉、住民が地域のことを話し合うための部屋なども設け、地域の人が普通に立ち寄れる場所をつくる。それがカブーレの特徴です。
障がいのある人もない人も、高齢者も、子育て中の親も、地域の外から来た人も、同じ場にいて、自然に関わり合う。福祉の利用者だけが集まる場所ではなく、地域の人が普通に立ち寄り、食事をし、お風呂に入り、顔を合わせる場所をつくる。
「私たちは、どんな活動の中にでも障がいのある人の仕事をつくることを考えます。だから、お風呂の清掃も、ウェルネスの受付も、館内清掃も、食堂も、すべての場所で障がいのある人が働いています」と寺田さん。さまざまな仕事を障がいのある人が担い、その役割が当たり前に地域の中に位置づけられています。
施設の建物と同じように、住まいにも工夫がありました。支援が必要な人たちを地域から少し離れた大きな施設に集めるというスタイルはよく見かけますが、地域から離すのではなく、グループホームやシェアハウスをまちなかに点在させ、日中活動の拠点まで歩いて通えるようにしました。最初は戸惑いもあったそうですが、顔を合わせる関係が重なる中で、地域の方からの反応が「知らないから不安」が「知っているから大丈夫」へと変わっていきました。
2)お風呂が、見守りになる
施設の中でも象徴的なのが温泉です。地下1,200メートルから掘り出した温泉で、一般利用は500円で入れる一方、周辺7町会の住民は無料で利用できるようにしました。
寺田さんの説明が続きます。
「町内の方の名前を書いた名札を作り、入湯記録簿に名前を書いてもらっています。そうすると、誰が来ていて、誰が来ていないかが見えてきます。毎日来ていた人が来なくなったら、心配することができます。つまり、お風呂がそのまま見守りの仕組みにもなるのです。」
昔、寺や神社、公衆浴場は人が集まり、情報が交わる場所でした。
「お風呂の中で、『今年の祭りはどうする』『あのおじいちゃん元気か』といった会話が自然に生まれます。そうやって薄くなっていった地域の横のつながりを取り戻していく。それが、後の災害時にも生きてきます。私たちはこれを『フェーズフリー』と呼んでいます。平時に何をしてきたかが、有事に問われるということです」
蕎麦店もまた、人を引き寄せる場です。おいしいものがあるから人が集まり、顔を合わせ、会話が生まれる。その日常の積み重ねが、地域の横のつながりを育てていきます。
ウェルネス施設「ゴッチャ!ウェルネス輪島」子どもから高齢者、障がいのある方も誰もが通うことのできる地域の健康増進施設。筋力トレーニングだけでなく、地域住民の健康面のサポートを目的としている。高齢者デイサービスのプログラムで運動をしたり、ここで汗を流した人が温泉に立ち寄ったりするなど、施設の活用がクロスする。
こうした機能を通して、カブーレは「人が交差するまち」をつくろうとしてきました。オープンからわずか1年で、小さなまちにおよそ10万人の関係人口を生み出すことができました。その後、5年間で関係人口はさらに増え、輪島市の人口2万3000人の10倍を超える規模になっていきました。
3)なぜ、輪島にこうした場所が生まれたか
輪島カブーレは、国の「生涯活躍のまち」構想の先行7モデルのひとつであり、全国で最初に運用が始まった事例です。
2015年12月にプロジェクトがスタートし、社会福祉法人佛子園と公益社団法人青年海外協力協会(JOCA)が輪島市と連携して取り組みを進めました。寺田さんは、もともと青年海外協力隊としてジンバブエに派遣されていたそうです。立ち上げメンバー10名は全員が青年海外協力隊の経験者で、全員が輪島への移住者でした。
輪島KABULETの施設長、寺田誠さん。青年海外協力隊の一員としてジンバブエに料理の専門家として派遣された経験がある。「輪島カブーレ」は造語。輪島の伝統工芸である漆に「かぶれる」という言葉と、移住者として「輪島にかぶれる、輪島に染まる」という意味が込められている
プロジェクトの出発点は、地域課題の丁寧な分析でした。青年海外協力隊のノウハウを活かした調査から見えてきたのは、空き家・空き地の増加、人口減少、超少子高齢化、核家族化といった課題です。2015年時点で、輪島市には2500件を超える空き家・空き地があったとされます。
人口減少をすぐに止めることは難しい。その現実を踏まえながら、地域で暮らし続けられる仕組みをつくろうと始まった取り組みでした。
そうして、市内の空き家や空き地を活用し、上記福祉交流施設に加えてゲストハウス、中華そば屋、コワーキングスペース、2輪車用のガレージ、サービス付き高齢者住宅、障がい者のグループホームなどにリノベーションしていきました。
輪島KABULETは、主体の一つである社会福祉法人佛子園のノウハウを生かし、就労継続支援A型・B型に加えて、高齢者デイサービスや子どもの居場所、配食サービス、入浴機能、地域交流スペースなども組み合せる形で、複数の制度を横断し、地域の暮らしを支える場として運営されています。
輪島市役所の増設に伴い、2階の元執務室の活用を検討する中で就労支援型のカフェの運営を担うなど、取り組みは広がっていきました。
寺田さんは「ただ、居心地の良い場所をつくりたかった。サードプレースをつくりたかった」と語ってくれました。
「市役所2階のカフェ」業務を円滑に進められるよう、コーヒーを飲みながら休憩だけでなく、個人ワークやミーティング、プレゼンテーションなどの業務もできるよう空間設計された。弁当、パン、お菓子などが買える売店スペースもある。震災時は福祉避難所として活用された
「ゲストハウスうめのや」居酒屋だった建物を改装。一階は中華そば屋、隣接してコワーキングスペースもある。3部屋の個室とドミトリー(相部屋)。ソーイング防災士のsumiさんと、防災ママカフェを主催しているかもんまゆさんと一緒に宿泊利用した4)地震の翌日、まず動いたこと
関係人口も増え、輪島に新しい流れが生まれつつあった2024年1月1日、能登半島地震が発生します。
輪島では朝市通りの周辺をはじめ市内各地が大きな被害を受けました。「空が赤く染まり、翌日には灰が降っていました」と寺田さんは振り返ります。輪島カブーレも内部は大きく損傷しましたが、福祉施設としての耐震性があったため、建物自体は機能を残していました。
そこでまず行われたのが、市役所内に設けていたカフェを福祉避難所に切り替えることでした。一般の避難所では過ごしにくい高齢者や障がいのある人たちの受け皿を早急につくる必要があったからです。東日本大震災や熊本地震などの支援経験からの判断でした。
続いて急いで再開したのが、お風呂でした。避難所に自衛隊のお風呂が開設されても、そこまで行けない人がいます。だからこそ、地域の中にあるお風呂を開ける意味がある。震災から11日後には温泉を再開しました。
さらに2024年9月の奥能登豪雨では、たった15分で腰の高さまで水が来るような被害が起きました。施設も再び大きな被害を受けましたが、地域の人たちが復旧に集まってくれました。「自分の家も被害を受けているのに、『ここのお風呂に助けられたから、まずここを再開しないとみんなが困る』と言って来てくれたのです」。豪雨から12日後にはお風呂を再開しました。「毎日300人が入りに来る、お風呂はやはり強いコンテンツです」と寺田さんは話してくれました。
5)仮設住宅のそばに、人が集まる場所を
仮設住宅への引越しが進む中で課題となったのが、孤立と災害関連死です。過去の災害では、直接の地震被害を免れても、その後に体調や生活環境の悪化で亡くなる人が多くいました。
そこで始めたのが、仮設住宅の敷地内に整備された「コミセンBASE」です。集会機能と福祉機能を一体化させたこの施設は、日本の災害支援では初めての試みとされています。
コミセンマリンタウンBASEは大規模な仮設住宅団地が複数集まっているエリアに設置された。明るい軒下空間が特徴。マリンタウン第一仮設団地には「動く仮設住宅」と呼ばれるトレーラーハウス型の仮設住宅が44 戸配置されている
私が訪れたのは、マリンタウン第1仮設住宅団地内にある「コミセン マリンタウンBASE」。2025年4月にオープンしたこの場所には、仮設住宅の住民は無料で利用できる銭湯と食堂「コミ食堂」、高齢者デイサービス、相談支援の窓口が一か所に集まっています。
東日本大震災でも熊本地震でも、仮設住宅に集会所は作られましたが、お風呂・食事・高齢者デイサービスがそろう設備ではありませんでした。
午前中はデイサービス、昼どきは食堂、夕方になると銭湯利用者がビールを飲むなど、時間帯によって、または同時進行で様々な活用がなされるコミセンBASE室内。
「コミセンラーメン」看板メニューのコミセンラーメンをいただいた。このほかにメニューは蕎麦や丼もの、定食、一品料理など。日替わりメニューも店内に掲示されている。コミセンラーメンは一杯600円
担当した建築事務所によると、「集会所」として機能する部分を災害救助費、福祉や入浴など「サポート拠点」として機能する部分を厚労省予備費事業として建設されることとなったそう
私が訪れたときには、デイサービスを利用する高齢者の皆さんがテレビを見ながら談笑する隣のテーブルで、来街者がお昼ご飯を注文していました。
食堂には、仮設住宅の住民はもちろん、復興関連の作業をしているらしき作業姿の人、ボランティアらしき学生、観光客が混ざり合って食事をしていました。
コミセンでは、住民の提案のもと、ヨガ、歌声喫茶、ニュースポーツ、化粧セラピーなど、多様なプログラムが行われています。また、ここでは被災して仕事や店を失った元海女さんや朝市通りで商売をしていた人、障がいのある人たちなど、様々な方が働いています。
仮設住宅が完成して入居できるようになるのは復興に向けての明るいニュースと捉えられるでしょう。しかし、避難所で周りの人から見守られている状態と比べ、仮設住宅は部屋の中の様子が分かりにくく、声もかけにくくなります。
住む場所が確保されても、日常の「出かける理由」がないと、ついでに誰かと顔を合わせることもなくなり、閉じこもりがちになってしまいます。
コミセンBASEは、その失われた「まちの日常」を仮設団地の敷地の中に作り直そうとしている場所です。銭湯があるから来る、食事があるから来る、デイサービスがあるから来る。来た先で誰かに会う。その積み重ねが、仮設住宅での孤立を防いでいきます。
「人は、人と関わることで元気になっていきます」と寺田さんは話していました。
「この規模の施設であれば、平時からまちの中につくっておけるのではないか」と寺田さんは語ります。ケアプラザなどのしっかりとした福祉施設を新設するのは予算や運営の点で難しいかもしれないけれど、銭湯と食堂を備えたまちの交流施設を平時から点在させておき、活用していれば、いざ災害が起きた時にみんなの拠り所になる。人が来る理由のある場所をつくっておき、日常使いしておくこと。この「コミセン」でやっていることの本質は輪島カブーレと同じなのです。
福祉サービス、食堂、銭湯に加え、郵便や遠隔診療などの取り組みも始まったと掲示されていました。
この「コミセン」は、マリンタウンだけでなく、輪島市内の仮設住宅に2か所がオープンしました。
3つのコミセンには、2025年末までで延べ9万人を超える人が訪れました。今後はさらに、輪島市北部の町野エリアや隣接する能登町などに新しいコミセンも立ち上がっていきます。もともとなかった場所に、新しい寿司屋やコインランドリーなどをつくる構想もあるそうです。ただ元に戻すのではなく、前にはなかったものを生み出していく。創造的復興が進行していました。
6)平時に何をしてきたかが、有事に問われる
輪島を訪ねてみて改めて感じたのは、平時に築いてきた関係性の大きさです。誰が誰を知っているか。どこに人が集まる場所があるか。普段から地域の中にどんな接点があるか。そうした目に見えにくい土台が、非常時の支えになります。
輪島で続いてきた「ごちゃまぜ」の地域づくりが平時のつながりを作り、それが非常時を支えるのにどれだけ大事かを示していました。福祉とまちづくりを分けず、交流と支援を分けず、人が集まる場所を丁寧につくってきたこと。その積み重ねが、災害の後にも人とまちを支える力になっていました。人が自然に集まり、顔を合わせる場所を日常の中につくっておくこと。その大切さは、神奈川でも変わりません。
神奈川県住宅供給公社の竹山団地でも、神奈川大学の学生たちによる地域連携の取り組みや運動プログラムに取り組める「竹山セントラル」、介護予防の教室も開催される食堂「竹山キッチン」などが始動し始めています。
団地にはもともと、多世代が近い距離で暮らし、顔の見える関係を育みやすい土壌があります。一方で、ライフスタイルの変化や高齢化により、人との接点が減り、孤立が課題となる場面も増えています。だからこそ、日常的に立ち寄れる場所や、ゆるやかにつながれる機会を地域の中につくっていくことが重要なのだと感じました。
あらゆる活動に「防災」のエッセンスを加えて活動するライフデザインラボの「コミュニケーション防災」もフェーズフリーの活動です。
輪島での実践は、防災活動を日常に取り込むことの意義を教えてくれました。
ライフデザインラボの活動はライフデザインラボWEBサイトへ
これまでの「探そう!コミュニティの芽」は下記リンクへ
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