学び×団地で地域のつながり創造する【緑ヶ丘団地×東京工芸大学】~Kosha33トークセッション「with Public│団地と大学」のスピンオフ企画として「団地ツアー」~
with Public2026.09.29
団地には、集会所や広場、緑地など、住まい以外にもさまざまな空間があります。一方で、こうした空間の中には十分に活用されていないものもあります。公社では、こうした団地の空間を資源ととらえ、その資源を地域にひらいていくことで、人のつながりや新しい暮らしの価値を生み出す取り組みに挑戦しています。その一つが、大学との連携です。
大学が持つ専門性や学生ならではの視点を団地に取り入れることで、学生にとっては実践的な学びの場となり、団地にとっては新たな活動や交流が生まれる場となっています。
「学び」と「団地」が交わることで、団地は単に「住む場所」だけではなく、地域や人とつながり、新しい価値を生み出す場へと広がっていきます。
7月上旬、Kosha33トークセッション「with Public│団地と大学」のスピンオフ企画として「団地ツアー」を開催しました。
本ツアーでは、緑ヶ丘団地×東京工芸大学、竹山団地×神奈川大学の2つのコースを設定。
今回は「緑ヶ丘団地×東京工芸大学」のツアーをご紹介します。
1 団地を地域にひらくとは
緑ヶ丘団地では学生が地域の中に入り、団地の空間を活用しながら、地域住民との交流や新たな場づくりに取り組んでいます。
学生にとっては実践的な学びの場であり、団地にとっては、新しい視点や人とのつながりが生まれる場です。今回は、私自身が実際に現地を訪れて感じたことや、学生と地域住民との関わり、そこで生まれている活動を通して、団地を地域にひらくことで生まれる新たな可能性をお伝えします。

緑ヶ丘団地集会所へ集まる参加者たち
公社職員のほか、地域づくりや住宅施策に携わる行政・企業・団体関係者が中心に参加しました
2 大学と連携することになった経緯
神奈川県住宅供給公社では、少子高齢化に伴うコミュニティの希薄化など、団地が抱える課題に対し、大学と連携したさまざまな取り組みを進めています。学生のアイデアや専門知識を活かすことで、団地内の交流促進や住環境の改善につなげるとともに、大学にとっても実践的な学びの場になっています。

緑ヶ丘団地の一角
緑ヶ丘団地は、長年にわたり地域の暮らしを支えてきました。一方で、入居率の低下や高齢化、コミュニティの希薄化など、地域を取り巻く環境も変化してきました。団地の集約などが進められる中で、これまで培われてきた団地の価値をどのように次の時代につなぎ、新たな価値を生み出していくかが重要なテーマとなっています。
団地内には集会所や広場、公園、通路などの共用空間があるものの、こうした場所が十分に活用されているとは言えず、地域の方が気軽に集まり交流できる場にはなっていませんでした。
そこで公社と大学が着目したのが、団地を「地域にひらく」ことです。既存の空間を活かしながら、団地の外からも人が訪れ、さまざまな人が関われる場へと変えていく。団地の持つ資源を地域の人にも活用してもらうことで、人と人との新しいつながりを生み出し、団地だけでなく地域全体の活性化につなげていくことを目指しています。
厚木市緑ヶ丘エリアの活性化を目的に、神奈川県住宅供給公社と東京工芸大学が連携協定を締結し、教育・研究プロジェクト「ミドラボ」がスタートしたのは2018年1月。以来、教員や学生たちが専門分野を生かした多様な取り組みを通じて、団地や地域に新たな価値を生み出す取り組みを続けています。
また、地域住民とともに、団地の広場や集会所などを活用し、多世代が自然につながるコミュニティづくりにも取り組んでいます。
学生の学びが地域につながり、地域での経験が学生の学びにつながる。そんな双方向の関係が、このプロジェクトの特徴です。
3 訪れたくなるような空間づくり
「団地を地域にひらく」ために、まず取り組んだのが、人が入りやすく、過ごしたくなる空間づくりでした。団地のフェンスを間引き、歩行者が団地の敷地内を歩けるようにする「オープンストリート」を整備しました。安全性が向上しただけでなく、閉鎖的だった団地が地域へ開かれた空間へと変わり始めました。
また、集会所も大きくリノベーションしました。室内には幅約15mに及ぶディスプレイウォールを設置し、展示・収納・ベンチなど多様な用途で活用されています。
ディスプレイウォールに腰を掛ける森田教授
さらに、「中で何かをしていることが外からも伝わる」工夫も施されています。単にきれいに整えるのではなく、外から見ても「何をしているのだろう」と気になり、ふらっと立ち寄りたくなるような空間を目指しているとのことです。

和室の窓ガラスにはかわいい絵が
屋外では、日常の中に小さな楽しみを生み出すため、ガーデニングにも取り組んでいます。

夏休みの間は、水やりなどのお世話を地域の方がしていたそうです。訪れた日も真夏日の中、学生と団地の住民の方が一緒に集会所周辺の草刈りを行っていました。整えられた空間を「学生がつくって、住民が使う」という一方向の関係ではなく、一緒に手を入れながら育てていく。その姿を実際に見ることで、空間づくりそのものが、人と人が関わるきっかけになっていると感じました。
4 ミドリバから広がる交流
プロジェクトの拠点となっているのが団地の集会所。集会所を団地住民と地域住民にとっての「身近な居場所」として定期的に開いていく試みとして始まったのが「ミドリバ」です。
現在は、東京工芸大学の森田研究室の学生を中心に、団地に住み地域活動をする学生「団地活性サポーター」や地域団体、公社職員が協力して運営しています。

放課後には、小学生が訪れます(一緒に遊ぶ森田研の学生たち)
学生と子どもたちがボードゲームや宿題を通して自然に関わり、高齢者もお茶やコーヒーを飲みながら会話を楽しんだり、スマートフォンの使い方を相談したりと、世代を超えた交流が日常的に生まれています。
このほかにも、地域で野菜を育てている方のご厚意による「野菜のおすそ分け会」や、団地活性サポーターによる「かき氷を食べよう」といった企画など、さまざまな活動が行われています。
学生や地域団体が集会所を活用することで、少しずつ月間カレンダーの予定も増えてきました。活動を地域に伝えるための工夫もあります。定期的に、芸術学部デザイン研究所と共同で、活動の様子を伝える「ミドリバだより」を発行しています。
発信をきっかけに本の寄付を呼びかけたところ、近隣の住民の方から本が集まった
活動を知ってもらうことが、新たな関わりにもつながっています。
活動について話を伺う中で、印象に残ったのは、学生が「地域のために何かをする」だけではなく、住民との関わりを通して、一緒に地域を育てていこうとしていることでした。子どもたちと遊んだり、高齢者と何気ない会話を交わしたりする中で、学生と住民との間に少しずつ関係が築かれています。こうした何気ない時間の積み重ねこそが、学生と住民が互いを知り、地域を一緒につくっていく土台になっているのだと実感しました。
後日、緑ヶ丘団地を担当している公社の先輩職員にお話を伺ったところ、最近では、麻雀や将棋を教えてくれる住民を募り、学生が住民から教えてもらう機会も生まれているそうです。さらに、学生がいないときにも、集会所に集まって麻雀や将棋を楽しむ住民が出てきたとのことです。
試行錯誤を続けている学生に向けて、参加者からは「継続できていることがすばらしいよ!」とうれしい言葉も
5 活動してきてみえてきたこと
活動を続ける中で、イベントに参加する方が固定化しやすいことや、集会所へ足を運ぶことに心理的なハードルがあることなど、参加者を広げていく上での課題も見えてきました。
一方で、イベントに参加するわけではなくても、活動の様子を見て「頑張っているね」と声をかけてくださる方や、古本を提供してくださる方、ガーデニングのためにプランターを譲ってくださる方もいるそうです。こうした話からも、活動が少しずつ地域の中に知られ、様々な形でかかわる人が生まれていることがうかがえます。
だからこそ、イベントに「参加してもらう」ことだけを目的とするのではなく、住民の方がそれぞれのペースで自然に関われる入口を増やしていくことが大切なのだと思います。
ガーデニングや地域マップづくりなど、暮らしに身近なテーマであれば、「イベントに参加する」という構えた気持ちではなく、「ちょっと見てみよう」「少し手伝ってみよう」と、気軽に関わるきっかけとなるかもしれません。
居室から見える緑ヶ丘集会所。白と緑ののれんが学生がいるというサイン
森田研究室の学生からは、ミドリバに関わる人たちを「交流人口」から「関係人口」へとつなげていきたい、という話を聞きました。
一度訪れて終わるのではなく、何度か足を運び、やがて自分から活動に関わっていく。
今回、実際に学生の話を聞く中で、そうした関わり方の変化を生み出していくことが、このプロジェクトの目指すところなのだと感じました。
6 緑ヶ丘団地で目指すこと
森田研究室の学生が目指しているのは、住民の皆さん一人ひとりが「参加する人」になり、その後「一緒につくる人」へと関わりを広げていくこと。
やがては、住民自身が活動を企画したり、運営したりするような、住民主体のコミュニティへと育っていくことです。
そのためには、地域の人が「何か面白そうなことをしているな」「ちょっと行ってみようかな」と思えるような、訪れるきっかけを作ることが必要です。
学生たちは、より居心地がよく、入りやすく、活動の内容がわかりやすい場所にするにはどうしたらよいかを試行錯誤しながら、空間の使い方やイベントのあり方を考えています。これまでの活動を通して、継続して利用してくださる方との関係が築かれてきた一方で、新たな利用者との接点づくりも今後の課題の一つです。世代が異なる学生と住民が自然に会話できるよう、共通の話題やきっかけづくりも大切にしたいと話していました。
今後は、外部講師を招いたイベントや大学サークルによる発表、住民参加型ワークショップなど、さまざまな形での接点づくりを検討しています。
また、ガーデニング活動や地域マップづくりなど、住民一人ひとりの興味や得意分野を生かした活動へと発展させることで、無理なく関われる機会も増やしていきたいそうです。
今回、団地ツアーに参加して、団地が持つ広場や集会所は、単なる施設ではなく、人と人をつなぐ地域の資産なのだと感じました。
そこに行けば誰かに会える、何か面白いことがある、ちょっと参加してみようと思える。
そんな「きっかけの場」が地域の中にあることで、人それぞれが無理のない距離感で地域と関わることができるのではないでしょうか。
新しく密なコミュニティをつくることではなく、「ちょっと行ってみよう」「ここに行けば誰かに会える」と思える場所があることが大切なのだと思います。
夏の暑い日や冬の寒い日、あるいは誰かと少し話したいときに気軽に立ち寄れる。そんな場所があることで、日常の中に自然な人との関わりが生まれ、暮らしの中に少しずつ地域とのつながりが育っていくのではないでしょうか。学生たちの活動をきっかけに、緑ヶ丘団地周辺地域が、こうした人と人とのつながりが自然に生まれる、より賑わいのある活気に満ちた地域になっていけばと思います。
参加者からは、
「実際に取組みに携わる学生の声を直接聞くことができて良かった」
「このような活動を継続していることが素晴らしいと思った」
との感想をいただきました。
団地には、住まいとしての役割だけでなく、人と人が出会い、学び合い、新しい価値を生み出す可能性があります。大学の専門性や学生のアイデア、そして地域の皆さんとのつながりを生かしながら、「団地を地域にひらく」取り組みは少しずつ広がっています。
団地を「利用する場所」から、地域の人が「自分も関わってみたい」と思える場所へ。学生・住民・公社がそれぞれの立場から関わりながら、一緒に地域を育てていく。
そんな関わりが少しずつ広がっていくことで、団地が地域にとってより身近な場所になっていくのではないでしょうか。
これから、この取り組みがどのように広がっていくのか、今後の展開に期待しています。
ツアーでは、学生の提案で実現した学生用リノベーション居室も見学

実際の居室で室内環境測定や消費エネルギーの測定を行い、調湿・断熱化の効果検証を行っている居室の見学も

集会所の近くにあるプレイロットにいる個性的な動物たち
