• TOP
  • ブログ
  • コミュニティづくり
  • 【「with Public 4」企画インタビュー】「住宅地」を、もう一度「まち」にする。小さな「やりたい」から始まる地域のつくり方 ___ 野原 卓さん

 

【「with Public 4」企画インタビュー】「住宅地」を、もう一度「まち」にする。小さな「やりたい」から始まる地域のつくり方 ___ 野原 卓さん

コミュニティづくり2026.09.07広報担当

IMG_4300.JPG

横浜国立大学 大学院工学研究院 教授
野原 卓さん

高度経済成長期につくられた団地やニュータウン。その多くは、良好な住環境を提供する「住宅地」として計画されてきました。
しかし、人口減少や高齢化が進み、暮らし方や働き方も大きく変化する中で、「住む」ことだけに特化した住宅地を、そのまま維持していくことは難しくなりつつあります。

横浜国立大学大学院で都市計画を研究したり、「アーバニストスクール」というまちづくり人材を育成するプログラムを実践する野原卓先生は「住宅地を、もう一度『まち』にすることが必要ではないか」と話します。

今回は、相鉄いずみ野線・南万騎が原駅を中心に10年以上続けてきた「みなまきラボ」などの実践をもとに、これからの郊外住宅地と地域の関わり方について伺いました。

現在の住宅地はどのような課題を抱えているのでしょうか。

高度経済成長期には、大量の住宅を供給することに大きな意味がありました。その結果、郊外には「住宅地」がたくさんつくられました。当時は「閑静な住宅街がいい」という価値観もありましたし、住宅に特化した環境そのものが魅力だったのだと思います。

ただ、それを何十年も維持していくと、少しずつ問題が出てきます。

今、住宅地でやっている活動としては、相鉄いずみ野線の南万騎が原駅(横浜市旭区)を中心とした「みなまきラボ」があります。

相鉄さんを中心に、大学、横浜市が入り、行政・民間・大学、それから地域の人たちが一緒になって、「この地域をどうしていくか」を考え、実践しています。
団地では、横浜若葉台団地(横浜市旭区)の「みらいづくりプラン」の策定にも少し関わりました。

IMG_4298.JPG

策定委員会のメンバーとして関わり、地域住人らとともに作成した「横浜若葉台みらいづくりプラン 2017」の冊子

そのほかさまざまなエリアでの経験を通じて、先に結論のようなことを言ってしまうと、住宅地のエリアマネジメントが一番難しいと感じています。

商業地や中心市街地には、経済的なモチベーションがあります。自分の店や不動産、事業が儲かるから活動する。地域の価値を上げることが、最終的には自分の経済活動に返ってくる。

だから、まちに先行投資したり、資金を出したりする人や事業者が現れやすい。

でも住宅地は、基本的に皆さんが日々の生活を営む場所で、「地域を豊かにしたい」という思いはあっても、自分の生活とは別に費用を負担したり、地域をマネジメントをしていくのは、非常に難しいのです。

IMG_7968.JPG

野原先生の研究室前にある、学生によるエリア研究資料

団地やニュータウンではどんな取り組みをしていますか。

僕が南万騎が原で取り組んでいる活動では、ニュータウンがオールドタウンになってきた今、もう一度「New-New Town」にしていこうという話をしています。

別の言い方をすれば、住宅地を、もう一度「まち」にするということです。

住むための場所だけではなく、働く場所もある。土日にわざわざ別の場所へ出かけなくても、地域の中で遊んだり、過ごしたりできる。外から人がやってきたり、地域で何か新しいことを始める人がいたりする。そういうものが複合的に存在する状態が、「まち」なのだと思います。

2017年発行した神奈川県住宅供給公社の若葉台団地の未来づくりプランに関わったときには、「団地を超えるまち」ということを考えていました。

例えば、若葉台の中心にはさまざまなサービスがあります。それを団地の住民だけが利用するのではなく、周辺の住宅地からも人が来る場所にしていく。

団地の境界と、団地で活動する人たちの範囲を一致させないということを意識しています。

団地はどうしても類似した世代や世帯構成になりやすいので、団地の中だけで完結しようとすると、住民の高齢化や人口減少によって、徐々に活動を維持することが難しくなります。でも周囲を見れば、別の住宅地があり、そこにもいろいろな人が暮らしています。

共用部で面白い活動をすることも重要ですが、それをきっかけに、団地を地域へ開いていく。それが、これからの団地を考える一つの方向性ではないでしょうか。

IMG_4306.JPG

具体的に、どのような地域の活動を増やしていったのでしょうか。

相鉄いずみ野線の南万騎が原では、駅前に地域活動の拠点として「みなまきラボ」をつくりました。ただ、最初から地域の人に「ここで好きな活動をしてください」と言ってもうまくいかないんです。

そこで最初は、横浜の中心部などですでに活動していた人たちを外から呼び込みました。

ランドスケープの専門家が緑の活動をしたり、地域の農家さんと住民をつないだり、住まいを考える企画をしたり、小学校や子どもたちと活動したり。

外から来たプレーヤーがまず活動を起こし、そこに地域の人が参加する。これが第一段階でした。

続けているうちに、今度は地域の中から「自分もやってみたい!」という人が現れ始めました。

そこで「みなまきラボ会員」という仕組みをつくり、地域の人自身が企画できるようにしました。

すると、実は地域の中に、色々なスキルや経験を持っている人がいることが分かってきたんです。例えば、雑貨やインテリアを自作・販売していて、ほとんどセミプロのようになっている方がいます。

芸術系の大学を卒業し、絵やものづくりの技術を持っているけれど、子育てなどをきっかけに、今はそれを仕事として使っていない人もいる。そういう人たちは、どの地域にも意外と多くいます。でも、そのスキルを地域で使う場所がない。

みなまきラボでは、「地域のために何かしてください」ではなく、「自分はこんなことをやってみたい」というところから活動できるようにしました。

「自治会」という仕組みももちろん大切ですが、既存の地域組織ではなかなか活動の主体になりにくかった人が、自分の興味やテーマから入れる場所をつくる。

それによって、これまで表に出てこなかった地域の力が見えるようになってきたのだと思います。

IMG_4303.JPG

郊外住宅地の再生において「小さな地域拠点」がどのような役割を果たせるのかを実践的に検証した研究冊子「郊外住宅地におけるローカルコア拠点(みなまきラボ)形成の実験」

活動を継続する中で気をつけていることはありますか。

「まちづくりをやりたいですか?」と聞いて、皆が「やりたいです」と答えるわけではありません。皆さん、自分の仕事や家庭、日々の生活があります。その上で、「地域のためにまちづくりもしてください」と言われたら大変ですよね。

だから、自分がもともとやりたいことや、日常生活とつながっていることから始める方がいい。

趣味を生かす。
仕事を少し地域へ開いてみる。
自分が持っているスキルを誰かと共有する。

それが結果的に人とのつながりを生み、まちづくりになっていく。これまでの郊外住宅地は、「自宅の中」と「完全な公共空間」がかなりはっきり分かれていて、その間があまりありません。

だから、自分の日常生活の延長線上で、少しだけ地域と関われる「間」をつくることが重要だと思っています。

さらに言うと、自分のやりたい活動をすることと、施設全体を運営することは別なんです。

年間のスケジュールを考える。
収支を管理する。
利用者を調整する。
建物を管理する。
全体をマネジメントする。

そこまでいくと、もう「仕事」です。

まちづくりでは「自走」という言葉がよく使われます。最初は行政や企業、専門家が支援して、最終的には地域住民だけで運営してください、という考え方です。

でも、そこにはかなり大きな段差があります。

活動したい人に、運営まで全部任せる必要はないと思うんです。

IMG_4297.JPG

そのときの「運営」は誰が担うのでしょうか。

地域の中で、運営を「仕事」として担う人が必要なのだと思います。場とスキルをもつ、ローカルデベロッパーのような存在です。

公社や行政のような大きな主体が、すべての場所を同じ仕組みで一括管理するのではなく、一部を地域のプレーヤーへ委ねる。

そして、そこをマネジメントできる人には、きちんと仕事として取り組んでもらう。
一人ひとりが小さなプロジェクトを起こし、その人自身が利益を出しても良いと思います。

みなまきラボでは、活動の次の段階として「みなまきトライスタンド」という、小さなチャレンジショップもつくりました。本当に数平方メートル程度の場所です。
いきなり店舗を借りて商売するのは難しい。でも、「ここなら一度試してみたい」という人は、アロマや手づくり品などを販売できます。

地域のためだけに頑張り続けるのではなく、利益だけを追求する事業でもない。そうした小さな経済を少しだけ動かしてみる場所が求められています。

だから、その中間にある領域とプレーヤーが大事なのです。

IMG_4307.JPG

これからの団地や郊外住宅地には、どのような視点が必要なのでしょうか。

人口が減少していく時代に、ゼロから新しいまちをつくり直すことは厳しいと思います。だから、今ある住宅地をカスタマイズしていく必要があります。

住宅だけの場所としてつくられたところに、少しずつ働く場所を加える。

活動する場所をつくる。外から人が訪れるきっかけをつくる。そして、自分の暮らしの延長で地域に関われる「関わりしろ」を増やしていく。

そのときに重要なのは、「みんなでまちづくりをしましょう」と呼びかけることではありません。

「自分はこれをやってみたい」という一人ひとりの小さな気持ちを、地域へつなげられる環境をつくることです。

そして、その活動を支える運営については、地域の善意だけに頼らず、仕事として担う人をつくる。

小さな仕事、小さな商売、小さな不動産、小さな活動。

そうしたものがいくつも重なっていけば、これまで「住む場所」だった住宅地が、働いたり、遊んだり、人と出会ったり、新しいことを始めたりできる場所になる。

それが、「住宅地を、もう一度まちにする」ということなのだと思います。

IMG_4311.JPG

野原卓(のはら たく)

1975年 東京都生まれ。

2000年 東京大学大学院工学系研究科都市工学専攻修了【都市デザイン(西村・北沢)研究室】

2000年 株式会社 久米設計 (第一設計部・プロジェクト計画部)

2003年 東京大学大学院工学系研究科助手~助教

2010年 横浜国立大学大学院工学研究院 准教授

2011年 横浜国立大学大学院 都市イノベーション研究院 准教授

2025年 横浜国立大学大学院都市イノベーション研究院教授

野原卓さんが登壇するトークイベント

ブログ一覧に戻る