【「with Public 4」企画インタビュー】場所と関係性を育てるネイバーフッドデザイン「人が関わりたくなるまち」は、どのように生まれるか ___ 荒 昌史さん
コミュニティづくり2026.09.07
HITOTOWA INC. 代表取締役
荒 昌史さん
団地や住宅地には、さまざまな「共用部」があります。しかし、場所があるだけでは、人の交流や地域のつながりは生まれません。
「ネイバーフッドデザイン」をテーマに、様々なエリアで地域コミュニティ再生やマンションの共助の仕組みづくりを実践する、HITOTOWA代表の荒昌史さんは、まちを考えるとき、建物や空間だけではなく、その場所の歴史や、そこに暮らす人、周辺地域との「関係性」に目を向けています。
今回は、神奈川県住宅供給公社との取り組みであるフロール元住吉(川崎市中原区)や、荒さん自身が暮らす東久留米市・南沢学園町での不動産事業を手がかりに、これからの団地や住宅地に必要な「開き方」と「関係性」について話を聞きました。
「ネイバーフッドデザイン」とは何か、教えてください。
HITOTOWAでは「ネイバーフッドデザイン事業」を行っています。
事業のスキームとしては、デベロッパー、住宅供給公社さん、URさん、最近では行政などから業務委託を受け、団地、マンション、再開発エリア、ニュータウンなど住民の方々と一緒に、まちをより良くしたり、地域の課題を解決したりしています。
この方法の良さは、我々のように「地域に関わること」を職能としている人間が、長期間にわたって多面的に地域へ関われることです。
「タネ二ハの森 Farm Village」(東久留米市)コーポラティブハウス(共創型戸建住宅)の模型
よく地域関連の事業で、住民活動の「自走」という言葉がありますが、僕は完全な自走というものは、基本的にはほとんどないと思っています。何らかの連携によって活動、事業が続いていくことが大前提です。
ただし、それが誰か1人への依存になったり、会社、個人、NPOの誰かが無理をして支えていたりすると、だんだん歪んでいきます。だから、その関係性を常に最適化していくことが、ネイバーフッドデザインでは重要だと思っています。
そうした中で、神奈川県住宅供給公社さんの「フロール元住吉」は、我々にとっても特徴的なプロジェクトです。現地にHITOTOWAの従業員がコミュニティの管理人として常駐しながら、ネイバーフッドデザインを行わせていただいています。
地域のさまざまな共用部は、どのように開くのがよいのでしょうか。
共用部というテーマで考えると、いろいろな形があります。
建物の中の共用スペースもあれば、専有部の一部を地域に開くこともあります。
団地の大きな特徴は、敷地の中に地域に開かれた空間がたくさんあることです。
散歩コースになっていたり、公園的な機能を持っていたり、団地の内外の人たちが交流できたりする。
イベントができたり、さまざまな人が関われたりする「余白」そのものも、共用部なのではないかと思います。
例えば、庭を少し地域に対して開いてみる。敷地を高いフェンスで完全に囲うのではなく、植栽で緩やかに境界をつくってみる。軒先で小さな活動をしてみる。
こういったことは集合住宅ではなく一戸建ての住宅街でもできるのではないかと思っています。
全部を公共空間にする必要はありません。プライベートな空間と公共空間の間には、本当はいろいろな段階があります。
「ここから先は私有地です」「ここから先は共用部です」と明確に分けるだけではなく、その間にある余白をどうつくるか。
そこに、その場所ならではの面白さがあると思います。
少しだけまちに開いてみることで、通りかかった人と会話が生まれたり、「ここで何かやってみたい」という人が現れます。
まちを開くというのは、必ずしも大きなことではありません。小さな開き方がたくさんあることが大切だと思っています。
学園町にあるHITOTOWAさんの事務所。ライト建築の特徴である大谷石が使われている
荒さんは「場所そのものではなく、関係性を見る」ことを大切にされていますね。
そうですね。建築や不動産は、どうしても土地や建物を一つの「物件」として見がちです。ただ、建築は単体では成立していません。
建物の周囲にどんな風景があるのか。そこにどんな人が暮らしてきたのか。どんな歴史があるのか。隣の地域とどんな関係にあるのか。
それらも含めて、建物が成立すると思っています。
僕自身が暮らしている東久留米市の学園町は、約100年前に自由学園によって宅地分譲された地域です。
もともとは農地や雑木林が広がり、その環境を生かしながら、豊かな住宅地がつくられてきました。自由学園の教育理念や、建築家フランク・ロイド・ライトとその弟子の遠藤新の設計思想を受け継ぐ邸宅も複数あり、大きな庭や木々が残る独特の風景があります。
一方で、相続などをきっかけに大きな敷地が分割され、庭や木が少しずつ失われています。
それを見ていると、土地を単純に「何平方メートルあるか」「何戸建てられるか」だけで考えていいのだろうかと疑問に感じ、自分たちで不動産業をやらないといけない、と思いました。
不動産屋になりたかったというより、この町のために必要なソリューションとして、一番足りていなかったのが「不動産業」だったんです。
豊かな緑に包まれた学園町の町並み、と解説をする荒さん
実際の不動産業では、どのように関係性を形にしているのでしょうか。
例えば、もともと広い庭があった敷地を二つに分けて住宅をつくるプロジェクトがあります。
一般的な宅地開発であれば、敷地を効率よく二分して、境界にフェンスを設置する方法が分かりやすいと思います。
ただ、僕たちは、そこに以前からあった畑や庭、開発当時からあったであろう大きな松の木などをどう残せるかを考えました。
敷地は分かれていても、境界を一般的なフェンスではなく植栽で緩やかに分ける。窓の位置を少しずらし、お互いのプライバシーを確保しながら、風景を共有できるようにする。
松の木については、維持管理に年間数十万円かかる可能性もありましたが、新しく住む方にきちんと背景を説明すると「残してください」と言ってくださったんです。
さらに、「隣の敷地が松を残すなら、こちらにも背の高い木を植えたい」という話も生まれました。
所有している土地は別々でも、風景は共有できます。
僕は、庭や植栽、樹木なども、広い意味では「共用部」と考えられるのではないかと思っています。
HITOTOWAさん事務所の庭。取材時、夏の通り雨で濡れた、深い緑が印象的
共用部は「みんなが所有する場所」という意味だけではないのですね。
はい。法律上の所有関係だけで考える必要はないと思います。自分の庭であっても、道路を歩く人がその緑を楽しめるのであれば、それは地域に対して何かを提供しているとも言えます。
逆に、団地の共用スペースであっても、誰も入れなければ、地域との関係は生まれません。
だから、「ここは共用部だからこう使いましょう」と先に決めるというよりも、その場所でどんな関係が生まれそうなのかを見ることが大切です。
誰が暮らしているのか。
周囲にどんな活動があるのか。
そういうものを丁寧に見ながら、その場所の使い方を考えていく。
僕たちがやっているネイバーフッドデザインは、空間をデザインするというより、人と場所、人と人との関係を編集しているところが大きいのかもしれません。
地域活動では「担い手不足」がよく課題になります。人に参加してもらうためには、どうすればいいとお考えですか。
地域コミュニティというと、「自治会活動を手伝わなければならない」「イベントに参加しなければならない」「共用部を管理しなければならない」といった義務のイメージが強くなることがあります。
でも、それでは続けにくいですよね。私たちは、コミュニティをできるだけ「義務」ではなく「権利」として考えたいと思っています。
「この場所を管理する人がいないので、誰かやってください」と言われると、どうしても負担に感じますよね。
でも、「この庭、ちょっと面白いですね」「ここでコーヒーを出してみたいです」というところから始まれば、全然違います。
子育て中なのか、そうでないのか、仕事が忙しいのか、退職して時間があるのかによっても、地域との距離は大きく変わるので、まちの中に小さな「やってみたい」が生まれる余白をつくることが重要です。
一人が何かを始めると、それを見た別の人が「私もやってみようかな」と思う。その小さな関わりが積み重なって、結果としてコミュニティが育まれていく。
最初からコミュニティを完成させようとしないことも、大切だと思います。
フロール元住吉にも「この場所では、こういうことを大切にしています」という考え方があります。入居前にお伝えしますが、義務として守らせるものではありません。
「ここでは、こういうことを大切にしたいので理解してくださいね」というくらいです。
「学園町憲章」緑豊かで清潔な町を創るための"住民の理念"として通りに掲げる
団地や住宅地を考える上でも、「小さな関わり」が重要になりますね。
そう思います。団地には、すでにたくさんの場所があります。
だから、新しい施設をつくることだけを考えるのではなく、今ある場所をもう一度見直してみることができます。
「誰も使っていない場所はないか。」「そこに何かやってみたい人はいないか。」
まずは、そういう小さな可能性を見つけることです。さらに言えば、団地だけを見る必要もありません。HITOTOWAの事務所があるひばりが丘周辺で考えると、ひばりが丘団地があり、自由学園や学園町があり、農地があり、雑木林や湧水があります。
それぞれは別の土地ですが、暮らしている人にとっては一つの生活圏です。
僕は、これからのまちづくりでは、それぞれを単体で考えるのではなく、「どういう関係にあるのか」を考えることが重要だと思っています。
「人が関わりたくなるまち」をつくるということは、大勢の人を集めたり、参加を求めたりすることだけではありません。
人と場所の間に、小さな関わりしろをつくること。そこから、地域のつながりは育っていくのではないでしょうか。
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荒 昌史(あら まさふみ) 1980年生まれ。2004年大学卒業後、リクルートコスモス(現コスモスイニシア)入社。2007年より新規事業として環境共生住宅やマンションコミュニティの企画を行う。2010年に独立、HITOTOWA INC.を創業。都市に助け合える関係性と仕組みをつくることを志し、ネイバーフッドデザイン事業では、デベロッパーや行政のアドバイザーやエリアマネジメント及び集合住宅のコミュニティ育成を推進。ひばりが丘団地のネイバーフッドデザインをきっかけに近接する東久留米市学園町に転居。街並みの継承のために「ひととわ不動産」を立ち上げる。自由学園 最高学部 非常勤講師。 |
