社内・グループ団体向け内覧会レポート:大学生が灯す、団地の未来。緑ヶ丘団地、団地活性サポーターのための住戸改修とコミュニティづくり
公社のこと2026.04.21

郊外の団地の課題といえば、高齢化・空室率上昇・コミュニティの希薄化。そんなイメージを持つ方も多いのではないでしょうか。
厚木市にある緑ヶ丘団地では、大学生・地域団体・公社が手を取り合い、団地の新しいかたちを模索する取り組みが進んでいます。今回は、社内およびグループ団体向けに開催された内覧会の様子をレポートします。
緑ヶ丘団地の歩み
緑ヶ丘団地(厚木市)が建てられたのは1963(昭和38)年。当時、厚木市が誘致した尼寺工業団地で働く人々の住まいとして整備されました。約27haの開発エリアに賃貸住宅464戸をはじめ、分譲住宅や社宅・寮、県営住宅、戸建て住宅など、総戸数1,400戸の新築住宅が立ち並び、水洗トイレやダイニングキッチンを備え、学校や幼稚園、公園、商店街も併設された「夢の団地」として、かつては多くの人が憧れる場所でした。

厚木市の郊外に集合住宅や社宅・寮、一戸建てなど混在して開発された緑ヶ丘団地
(住みよい暮らしを創る 神奈川県住宅供給公社20周年記念誌(1971年11月)より)
しかし時代とともに住民は高齢化し、にぎわいは失われていきました。
そこで、地域活性化を目的に公社と東京工芸大学との連携プロジェクト「ミドラボ」が2018年にスタート。住民アンケートから見えてきたのは、「住民が集まり交流できる場所が必要」という本質的でシンプルな答えでした。
集会所が「みんなの居場所」に生まれ変わった
1985(昭和60)年に公社の賃貸住宅の敷地に建てられた集会所は、夏祭りや冠婚葬祭の会場として使用されるなど住民の交流の場でした。しかし近年は月に一度、自治会の打ち合わせで使われる程度に。
そこで、再び地域の人々が自然に集まる場をつくるため、ミドラボの取り組みの一環として、国土交通省所管「住まい環境整備モデル事業」の補助金を活用し、集会所と周辺共用部の改修工事に着手。2025年に工事が完了しました。
生まれ変わった集会所のポイント
- 外のフェンスや垣根を撤去し、通りかかる人が自然と立ち寄れるオープンな外観に
- 室内の壁を取り払い、開放的な空間へ
- 学生の手でディスプレイウォール(※1)を制作し、会話が生まれる仕掛けづくり
- 遊歩道のようなオープンストリート(※2)を設け、リングベンチなど立ち止まりやすい仕掛けづくり
- 土足のまま入室できるようにし、靴の脱ぎ履きをなくすことで出入りしやすく
改修前の集会所
改修後の集会所
こうして、地域に開かれた新たな交流拠点が誕生しました。
設計・デザインはすべて大学生が担当。住民の発案で小さな図書コーナーが生まれたり、大学のゼミや地域イベントにも活用されるなど、団地の新たなコミュニティの核として機能し始めています。
大学生が「団地活性サポーター」として暮らす
緑ヶ丘団地のコミュニティづくりのもうひとつの柱が、「団地活性サポーター」制度です。
神奈川県住宅供給公社の浦賀・相武台・緑ヶ丘の3団地で展開されているこの取り組みは、近隣大学の学生に、家賃半額でエレベーターが無い住棟の上層階に入居してもらい、地域活性化活動に参加してもらうというもの。
緑ヶ丘団地では、東京工芸大学と連携協定を締結し、令和8年4月1日現在4名の工芸大生が団地活性サポーターとして活躍しています。
少人数でも活動は可能ですが、人数が多い方ができることは広がります。住まいとしての魅力を高め、より多くの学生に団地活性サポーター制度に関心を持ってもらうため、2戸限定でリノベーションを実施しました。
リノベーションの内容
東京工芸大学建築学科の部分リノベのアイデアコンペで提案された学生のアイデアを組み合わせて実施案を検討。コスト・工事費・管理面を考慮してリノベーション内容を決定しました。
- 壁面の漆喰塗り
- 天井や木部の塗装
- 障子の取り付け
色は既入居のサポーターへのヒアリングをもとに、明るいホワイト系とシックなグリーン系の2タイプを選定しました。
ホワイト系の住戸の改修部分全体像。鴨居や壁、天井を白で統一

畳縁も全体の雰囲気に合わせて淡い茶色に変更しました。コストを抑えつつ、空間の印象を変える工夫をしています。
(入退去のタイミングで畳の入れ替えを行うため、その際は通常の畳縁に戻ります)

漆喰の塗り方は住戸ごとに変えています。こちらの住戸は、あえて無造作な塗り方。

グリーン系の住戸の改修部分全体像。鴨居や壁、天井をグリーンで統一

こちらの住戸の畳縁は、グリーンのトーンに合わせて、濃い茶色に

こちらの住戸の漆喰は、横方向にのびる均等な塗り方。左官屋さん曰く、こちらの塗り方の方が技術的に難しいのだとか
色彩の検討の際、学生に人気だったのは、ホワイト系の部屋。
「どの色の家具にも合いそう」「明るく広々と感じられる」と好評だったそうです。
一方で、今回の40代以上が多い職員見学会で人気だったのは、グリーン系の部屋。
「漆喰の影がよりキレイに見える」「落ち着く」との声がありました。
年齢によって好みの色味に違いが見られたのは、面白い発見でした。
管理する側からの本音
今回の内覧会では、神奈川県住宅供給公社の職員と、団地の管理を担う公社グループ法人のかながわ土地建物保全協会の職員に、集会所と改修住戸を実際に見ていただき、空間の雰囲気や改修の工夫、公社が取り組むコミュニティづくりを知ってもらいました。
大学生自身の手でつくったディスプレイウォールには、地域の方が持ち寄った本やメッセージカードなどが並びます

ディスプレイウォールに設置されたバーを見て、公社の職員から「これは何ですか?」と質問が。
まさに大学生の狙い通りで、「?」を作ることで会話のきっかけを生み出す仕掛けです
内覧会の最後には活発な意見交換が行われました。
「なぜ和室のままにしたのか」
古い団地を改修する際、時代のニーズに合わせて和室を洋室化することがあります。しかし今回は、あえて畳と障子のレトロな雰囲気を残すことにしました。
その理由は、学生へのヒアリングで「意外とレトロな感じが好き」という声が多かったためです。
「思い切ってレトロ感を売りにしよう」という判断に基づき、畳の縁もカラーにこだわったものを採用するなど、細部まで学生の感覚を取り入れています。
また、団地といえば長年の悩みである湿気やカビ。今回採用した漆喰には調湿性があるとされ、実際に朝方には壁の色が濃くなる様子が確認されているそうです。
担当者も「湿気対策になるなら、団地としての大きなPRになりそう」と期待しており、今後は測定やサポーターへのヒアリングを通じて効果を数値化していきたいと考えています。
公社の団地管理を担うかながわ土地建物保全協会。管理の観点でのご意見もいただきました。
「住戸や集会所だけでなく、団地全体の見た目のイメージアップについても検討してみてはどうか」
「入居率が下がると、共用部の管理に充てる共益費収入が減ってしまい、草刈りの費用も捻出できなくなる。草が伸び放題の団地を見て、内覧者が入居を断念する...そういった負のループもあるのでは」
「無料のイベントが多いが、しっかりと収益を上げ、その収益を共用部の見た目の管理費用に回しても良いのでは」
管理面では、今回のコミュニティづくりの取り組みと、一見相反する部分もあるかもしれません。
コミュニティづくりと団地全体のマネジメント、両方をどう両立させていくかが、今後の大きな課題です。
こうした多方面からの意見交換を通じて、課題の整理や改善のヒントを得ることができ、今後の取り組みに生かしていくことができます。
「住戸を貸す」から「暮らしを提供する」へ
神奈川県住宅供給公社が緑ヶ丘団地で目指しているのは、単に空き家を減らすことではありません。
「コミュニティがある」ことを付加価値にする。その結果、人とつながる豊かな暮らしができる。豊かな暮らしが魅力となり、団地や地域に住み続けたくなる。
そのために、日々トライアルを重ねています。
小さなリノベーションと工夫の積み重ねが、コミュニティの創出につながります。
緑ヶ丘団地の取り組みは、これからの郊外型団地のコミュニティ再生を考えるうえで、ひとつのヒントになりそうです。
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