Life Field
~皆様からの声~

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"もうひとつのキャンパス"が団地にできたら

2020.11.16掲載 森田芳朗(ミドラボ:東京工芸大学工学部教授)

Q1:東京工芸大学と公社が連携し緑ヶ丘団地(厚木市)で取り組む「ミドラボ」はどのようなプロジェクトですか。

2018年1月に東京工芸大学と公社の間で連携協定を締結し、緑ヶ丘団地とその周辺地域の活性化に向けた活動を始めました。大学が持つテクノロジーやアートの専門性を生かし、団地での新しい暮らしを学生と一緒に提案していくのが目的です。
私たちがいる東京工芸大学は、工学部と芸術学部の2つに特化したユニークな大学です。工学部では、建築や都市空間の設計が専門の市原出先生、八尾廣先生、田村裕希先生、鍛佳代子先生、非常勤講師の水間寿明先生、また建設環境や設備の専門家として水谷国男先生、山本佳嗣先生など、建築学科の多くの先生が関わっています。メディア画像学科から参加いただいている森山剛先生には、ミドラボの紹介動画の作成もお願いしました。そして芸術学部からは、映像学科の百束朋浩先生、マンガ学科の細萱敦先生が加わるなど、学内の学部・学科を超えたコラボが実現しています。大学生協の岡山淳一郎専務もメンバーの1人です。その輪のなかで、両学部の学生がいろいろな活動に参加しています。
団地での恒例イベント「ミドラボオープンハウス」では、空き住戸をギャラリーにした作品・研究展示、集会場でのトークショー、日頃はさみしいプレイロットを地域や周辺のみなさんとにぎわいの場に変えるマルシェなどを開催しています。この「ミドラボイヤーブック」はそれらをまとめたものです。

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「ミドラボイヤーブック」は146ページの見ごたえのある内容

ミドラボオープンハウス2019の様子
撮影は建築学科卒業生のカメラマン髙橋菜生さん(髙橋菜生写真事務所)

Q2:大学にとって公社や地域と連携する意義はどのようなところにありますか。

私は建築学科の人間ですが、建築学ではこれまで新しい建物をつくることに主眼をおいた教育や研究がされてきました。しかし時代とともに、いまあるものをうまく生かして機能・性能や価値を高めていくリノベーションのようなものづくりのあり方が重要視されるようになってきています。それを実際の建物や住環境で考え、実践していくチャンスがここにはある。そうした取り組みはいろいろな大学で見られますが、この「ミドラボ」はたくさんの教員や学生が楽しみながら協働している。その点が特徴だと思います。それができているのは、いつも活動を丁寧にサポートしてくださる公社のみなさんのおかげでもあります。
「ミドラボ」では、団地で暮らす学生が自分の専門性を地域貢献に生かしていく「団地活性サポーター」という制度があります。そのトップバッターとなった大学院生の森口拓生さんは、団地で生活しながら住戸の環境測定を日々してくれています。地域の方たちと触れ合うなかで、机上では得られない視点が養える部分もあるのではないでしょうか。


ミドラボを企画した工芸大卒業生の公社職員茶屋道(ちゃやみち)さん(左)と、
今年から大学院生でミドラボの団地活性サポーターとして活動する森口さん(右)

Q3:公社の印象や緑ヶ丘団地の魅力はどのようなところにありますか

ミドラボでいつもご一緒する公社の職員の方はもちろんですが、参考事例として見学させていただいた二宮団地や相武台団地、フロール元住吉でも、みなさん楽しみながら熱心に取り組まれている姿が印象的です。素敵ですよね。
緑ヶ丘団地のような昭和30年代の団地は、いま残っているなかでも最も古い部類に入ると思います。現在の建物と比べると見劣りする部分はあるかもしれませんが、棟間隔が広く、緑豊かでリッチな環境だと思います。逆にいま、こうした環境を新築でつくることは難しいのではないでしょうか。この資産を団地のなかだけで持て余すのはもったいないので、周囲に開いていくのもいいかもしれません。その先には、団地にこれまであまりなかった「稼ぐ」という営みへの可能性も見えてくると思います。団地を持続させていく上で欠かせない要素です。
海外では古い建物に魅力を見出す「ヴィンテージ」という価値観がありますが、長く住まわれてきた団地の価値も文化財のようにポジティブに捉えることができるはずです。時間が経てば経つほど、価値が増すという見方です。

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森田先生の研究室には団地にまつわる書籍も沢山ありました。

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キャンパス内のORANGE(基本計画・総合監修:市原出+東京工芸大学建築意匠研究室)で2019年に行った住戸リノベーション学生コンペの発表会。
体育館をデザイン学科のコース棟に改修したこの会場も、リノベーションの「教材」である(撮影:髙橋菜生/髙橋菜生写真事務所)

Q4:ミドラボの今後の取り組みと、学生にどのようなことを期待しますか。

地域の活動に参加するとき、私たち大学は良くも悪くも「よそ者」です。そこにずっと居続けることは難しいわけですから、どんな風が吹き込めて、何を残し、どうバトンタッチしていくかを考えながら関わっていくことが多いです。ところが緑ヶ丘団地は大学から近く、しかも学生が住めるというポテンシャルがある。「学ぶ」「つくる」「暮らす」「つながる」が一体となった、もうひとつのキャンパスがここにできると面白いですよね。
スタートを切った2018年度は、団地でどんな暮らしができるか、建築学科の設計課題でとり上げて、まずは自由に考えてみました。2019年度は、空室の目立つ上層階にどんな暮らしを埋め込めるか、住戸のリノベーションにテーマを絞りました。もともとは家族向けに設計された37m2に1人で贅沢に暮らす。建物が余り始めたいま、掘り下げがいのあるテーマです。窓の開閉方式を工夫することで室内に風を効果的に取り込むしくみや、健康・快適性に配慮したウェルネス住宅の実験も進んでいます。そして今年度からは、建物の外に目を向けて、地域のための場や空間をどうつくれるかを考え始めたところです。芸術学部のみなさんとは、団地のプロモーションビデオづくりのチャレンジが動き出しています。

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「住戸リノベーションの実現、ウェルネス住宅の実験、集会場の利活用を含めた地域の場づくり、団地を素材とした映像等の作品制作など、
学び、制作、暮らし、にぎわいが一体となったもうひとつのキャンパスづくりをミドラボで目指していきたいと思います」と、
今後のミドラボの活動について語っていただきました。

関連コラム:公社創立70周年企画
「皆様からの声」
団地に住みながら研究、住民目線の改善提案につなげたい 森口拓生(東京工芸大学大学院工学研究科)
https://www.kosha33.com/kjk70th/voice/post-9.php
地域とともに44年、遠い町から客が訪れる理容サロンに。「理容サイダ」斎田 一郎・千鶴(二宮団地)
https://www.kosha33.com/kjk70th/voice/44.php
手を動かして、自分たちの暮らしを作る。福井 高志、尚子(二宮団地)
https://www.kosha33.com/kjk70th/voice/post-1.php
ふるさとの思い出となる行事を絶やさないよう、繋いでいく 奥野 智(相武台団地)
https://www.kosha33.com/kjk70th/voice/post-8.php
ここでカフェをするのが運命、カルチャーに触れる場をつくる 佐竹 輝子(相武台団地内ひばりカフェ)
https://www.kosha33.com/kjk70th/voice/post-7.php

「公社社員の声」

母校とのコラボを実現、意思が尊重される職場 茶屋道 京佑(ミドラボ)
https://www.kanagawa-jk.or.jp/recruit/introduction/details.asp?id=19

点と点をつなぎ、新しい暮らし方を提案していく仕事 一ツ谷 正範(相武台団地、ユソーレ相武台)
https://www.kanagawa-jk.or.jp/recruit/introduction/details.asp?id=16

二宮団地再編を担当、地域の魅力を多くの方に伝えたい。西田 翔太郎(二宮団地)
https://www.kanagawa-jk.or.jp/recruit/introduction/details.asp?id=9

ミドラボ関連ページ

大学との連携
https://www.kanagawa-jk.or.jp/action/renkei.html

ミドラボFaceboock
https://m.facebook.com/ミドラボ-269018817057809/

団地未来
http://www.danchimirai.com/

二宮団地
http://www.nino-satoyama.com/

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