夏のひとときを浴衣で楽しむ歴史散歩「ゆかたで建築さんぽ」レポート
コミュニティづくり2025.09.11
「KANMATCH」は、神奈川県住宅供給公社と関内イノベーションイニシアティブ株式会社(以下、「Kii」)が協働で行うプロジェクト。関内の人や活動をつなぎ、街をより魅力的にしていくことを目的に立ち上げられました。
今回はこの「KANMATCH」が7月23日(水)に「benten103」(公社の賃貸「フロール横濱関内」1階)を拠点に開催したイベント「ゆかたで建築さんぽ」に参加してきました。
旧「弁天通3丁目第2共同ビル」からスタート
このイベントでは、横浜・関内地区に残る歴史的建造物についてのレクチャーを受けながら、参加者同士が交流し、夜の街を散策します。講師はライフデザインラボのメンバーで、歴史的建造物に詳しい中川ちあきさん。今日の散歩マップも中川さんの手作りです。主催者KANMATCHのディレクター、ハヤシアヤさんの着物への熱い思いから、「ゆかたでの参加」をおすすめした今回のイベント。横浜市内だけでなく、川崎や鎌倉、藤沢からも、6名の方が参加いただきました。もともと馬車道に縁がある方、benten103のイベントに参加したことがある方、着付けをやっていてゆかたイベントを探していて申し込みをした方ときっかけは様々ですが、皆さん建築や歴史的建造物に興味がある方です。
全員が浴衣というわけではありませんでしたが、6名中3名が浴衣姿でご参加くださいました。浴衣で街を歩きながら歴史的な建物を巡るなんて、なんとも粋なひとときです。
7月23日(水)の18時に「benten103」に集合。まずは、この建物の歴史について学びます。「benten103」は、2024年に竣工した賃貸住宅と施設の複合ビル「フロール横濱関内」の1階にあります。ここはかつて公社が建設した1958(昭和33)年築の「弁天通3丁目第2共同ビル」があった場所です。「弁天通3丁目第2共同ビル」は戦後の横浜復興の象徴のひとつで、地下1階・地上6階建て。2階までが店舗とオフィス、3〜6階が賃貸住宅でした。一部には当時としては珍しいメゾネット住宅を採用し、関内地区で何十棟も建てられた防火帯建築(※1)としても重要な役割を担いました。
このビルは公社にとって初めての自社所有オフィスでもあり、1973年までの15年間、本社オフィスとして使用されました。2015年に老朽化で解体されましたが、当時の先駆的な取り組みは神奈川県の戦後建築史において評価されています。現在の「フロール横濱関内」は、その精神を受け継ぎ、地域に貢献する複合ビルとなることを目指しています。
いざ、浴衣で建築さんぽへ
マップ片手に散歩がスタート。明治から昭和初期にかけての歴史的建物や、リノベーションで生まれ変わった施設を巡りながら、近代建築の魅力を体感します。
• 弁天通3丁目共同ビル(原ビル)
昭和29年(1954年)竣工の共同住宅と店舗の複合建物です。1階が店舗、上階が住宅という「下駄履き型」の構造を持ち、戦後の横浜復興期に神奈川県住宅公社(現・神奈川県住宅供給公社)が建設したものです。特徴は店舗と住宅の所有者が違うことと「防火帯建築」(※1)として建てられたこと。
(※1)防火帯建築
戦後の焼け野原において、火災の延焼を防ぐために鉄筋コンクリート造の建物を帯状に連ねて建築物。職住近接の生活スタイルを実現しながら、防災機能を兼ね備える先駆的な建物で、これらのビルはその代表例のひとつとされています。
• 損保ジャパン横浜馬車道ビル(旧川崎銀行横浜支店)
1922(大正11)年に川崎銀行横浜支店として竣工。当時は3階建てでしたが、1989年に改築工事により9階建てとなりました。下層部に一部の形状を残しています。関東大震災で焼け野原になった館内エリアで焼けずに残った数少ないビルのひとつです。横浜市認定歴史的建造物の第1号です。
• 馬車道大津ビル(旧東京海上火災保険ビル)
1936年(昭和11年)竣工。アール・デコ様式の装飾タイルが印象的で、馬車道の街並みに重厚な存在感を放ちます。当初、東京海上火災保険のオフィスとして建てられ、戦後も意匠を守りながら使用され続けています。現在も現役のオフィスビルとして活躍中です
• 神奈川県歴史博物館
現在、改修中の神奈川県立歴史博物館は、1904年(明治37年)に竣工した「旧横浜正金銀行本店」を活用した歴史ある建物。設計は妻木頼黄。ネオ・バロック様式の壮麗な石造り建築は、国の重要文化財にも指定されており、その美しいドーム屋根や重厚な柱、装飾的なファサードは、馬車道のランドマークとしても知られています。
• BankPark YOKOHAMA(旧第一銀行横浜支店/移築後 横浜銀行本店別館)
この建物は、渋沢栄一翁が設立した第一国立銀行の支店として誕生しました。関東大震災で被災した後、1929年(昭和4年)に「第一銀行横浜支店」として再建された姿をもとに、2003年の再開発事業の中で、一部を曳家工法で移動させ、復元されたものです。
関内から馬車道にかけてのエリアは、かつて戦前の横浜金融界を支えた中心地。この建物もその歴史を今に伝える貴重な存在として、2003年に横浜市の歴史的建造物に認定されました。重厚感のある半円形のバルコニーや繊細な柱頭装飾など、昭和初期の銀行建築の美しさを今に伝えています。
• 横浜市役所~馬車道駅
2020年開庁の現代建築。馬車道駅と直結し、市民に開かれた新しい都市空間を形成。横浜市役所の敷地内では、建設に際して発掘された歴史的な遺構が一部保存されています。また、馬車道駅の壁には、かつて「横浜銀行本店」にあった壁面彫刻の展示や近隣の建築で使われていた旧銀行や大津ビルなどの金庫扉や貸金庫、手すりといった本物のパーツが埋め込まれています。横浜の歴史と再開発をつなぐデザインが随所に施された、まるで地下ミュージアムのような駅です。
• 北仲ブリック&ホワイト
かつて日本で栄えた生糸産業の一角の担う「帝蚕倉庫」の倉庫をリノベーションした複合施設。復元された歴史的なレンガの素材感と白いモダンなデザインの融合が見どころ。地域の交流拠点としてマルシェやイベントも開催されています
• 横浜北仲ノット展望台
高さ約200mの無料展望台から、みなとみらい、赤レンガ倉庫、ベイブリッジ、天気が良い日は富士山まで一望。「KNOT=結び目」という名が象徴するように、歴史と未来を結ぶ場所です。
歴史と今をつなぐ時間
今回のコースでは、横浜の歴史を刻む建築物を巡りながら、街の成り立ちや当時の暮らしに思いを馳せる時間を過ごすことができました。普段何気なく歩いている街も、少し視点を変えるだけでまったく違う表情を見せてくれます。歴史的建造物に興味がある方同士、会話も弾み、浴衣でも浴衣じゃなくても、関内・馬車道の歴史散歩は、暑い夏の思い出となりました。
関内地区にはこのほかにも歴史的な建造物がまだまだありますので、第2弾もあるかもしれませんね。